富士通は、農業向けSaaS「Akisai(秋彩)」について2014年は利用が本格化する年と位置付けている。1月22日に開催した記者説明会で明らかにした。
2012年10月のサービス開始から1000社超の問い合わせや引き合いがあり、現在は160社(有償利用92社、トライアル・実証利用68社)が利用中という。同社は、2015年度までに事業者数2万、売り上げ累計150億円をサービスの販売目標として掲げている。
Akisaiは、企業的農業を経営、生産、販売まで支援するSaaSであり、露地栽培や施設栽培、畜産をカバーする。農業生産者の生産性向上だけでなく、食品加工や卸、小売り、外食企業などが生産物の品質管理や受給調整などに利用することも想定する。
富士通 統合商品戦略本部 本部長 阪井洋之氏
たとえば、有償利用92社の事業別内訳は、農業生産法人25社、流通小売り24社、JA関連8団体、自治体9団体、そのほかに種苗や資材のメーカー、研究機関が26となっている。「トライアル利用から有償利用に移るケースが増え、2014年から利用が本格化する」(統合商品戦略本部 本部長の阪井洋之氏)という状況だ。
このうち、農業生産法人については、宮崎県の新福青果、滋賀県のフクハラファーム、和歌山県の早和果樹園、福岡県の幸寿園・日高農園、大分県の衛藤産業、静岡県の鈴生の6社の事例を紹介した。
宮崎県の新福青果では、キャベツを植えた日からの積算温度をもとに適切な収穫時期を予測している。定植予定日を厳守し、栽培計画に沿って適切な作業を行うことで、キャベツ収量と売り上げを前年比30%アップを達成という。
滋賀県のフクハラファームでは、無農薬の有機栽培米や大豆、ブドウ、イチジクなどを生産している。田植え作業の工程を分析し、手作業での田植えなど時間のかかる作業を行わないなどの効率化を進め、2年間で総作業時間を500時間ほど削減し、10アールあたり0.47時間の能率アップにつなげたとしている。
和歌山県の早和果樹園では、ミカン園に設置したセンサからデータを収集し、果樹試験場から遠隔アドバイスを受け取ることで、高糖度ミカンの比率を3年間で3倍にすることに取り組んでいる。樹木1本ごとにIDを付与して園地を見える化し、スマートフォンを使ってアドバイスを受けている。
福岡県の幸寿園・日高農園は、花卉(かき)栽培で特定品種の栽培ノウハウがない幸寿園の経営者に、日高農園の指導者が遠隔から栽培のアドバイスを行っているケースだ。「施設園芸SaaS」で環境情報を統計的に共有でき、的確な指導と問題を共有できているという。
大分県の衛藤産業は白ネギや白菜、キャベツなどを栽培している従業員16人の企業。Excelで行ってきたコスト集計や写真データの管理を「農業生産SaaS」に移行し、作業状況の見える化や生産原価の把握に役立てている。サービス利用後、売り上げ高は前年比1.3倍になり、肥料代も約30%を削減。原価を把握することで、流通側からの値下げ圧力に対抗するなど、価格交渉力を向上させたとしている。
イオンアグリ創造 代表取締役社長 福永庸明氏
静岡県の鈴生は枝豆やレタス、ミニ白菜などを栽培する独立農家5軒、外部協力農家6軒らがつくる企業。作業履歴をExcelで管理していたが、農業生産SaaSに移行し、作業履歴照会、簡易分析、写真検索などを行っている。クウラド上でデータを共有することで、これまで数十分かかっていた産地報告書の作成が数クリックでできるようになるなど、農地別の生産原価管理、トラブル早期把握、スキルアップなどに貢献しているという。
流通小売りの事例としては、全国で12農場、合計140ヘクタールの直営農場を展開するイオンアグリ創造の事例が紹介された。イオンアグリ創造の代表取締役社長の福永庸明氏は、富士通との取り組みについて「直営農場の生産データや店舗情報、会計データなどを組み合わせ、経営や生産を見える化する。農薬や肥料の使用記録を管理して店舗に届けるといったように品質の見える化にも取り組む」と解説。将来的には、農作物の輸出も視野に入れていくとした。