政府が2016年から運用開始する税と社会保障の共通番号(マイナンバー)制度を活用し、銀行の預金口座に預金者のマイナンバーの登録を義務付ける方向で銀行界との調整を始めたという。政府が個人のフトコロをいつでも覗ける仕組みとも受け取られかねないだけに、国民への丁寧な説明が必要だ。
預金口座へのマイナンバー登録が必要な理由
3月18日付けの日本経済新聞朝刊が1面トップで報じたところによると、銀行の預金口座とマイナンバーの紐付けは2018年度から新たに開く口座を対象とし、その後、既存の口座にも拡大するという。脱税やマネーロンダリング(資金洗浄)を防ぎ、サラリーマンなど納税者に根強い不公平感の是正を図るのが狙いだとし、2016年の通常国会に関連法の改正案を提出したい考えだとしている。
ちなみに現在、日本の銀行が管理する個人の預金口座は約8億あり、郵便貯金なども含めると10億口座を超えるという。これらの口座をマイナンバーで確認することができれば、税務当局をはじめとした行政機関にとって個人が持つ口座をすべて一元的に把握できるようになるので、脱税や生活保護の不正受給の防止などに役立てることができるとしている。
逆に言えば、マイナンバー制度を導入しても預金口座の情報がなければ、そうした不正対策には役に立たない形になる。現状においては、自営業者や農家など個人事業主の所得捕捉率が低く、正確に納税しているサラリーマンが相対的に損をしているとの指摘もある。納税や社会保障受給の公平性を高めるために、預金口座へのマイナンバーの登録が必要だというのが政府側の意図のようだ。
これに対し、銀行界もこうしたマイナンバー活用の趣旨には理解を示しており、制度設計に協力する構えを見せている。すでに全国銀行協会は2月末に開かれた政府税制調査会の会合で、新たに開く口座に限ってマイナンバーの登録を義務付けた場合、300億円の費用がかかるとの試算を提示したとされる。
求められる利用者メリットの説明
ただ、課題も少なくない。まず、銀行の預金口座について言えば、約8億ある口座にマイナンバーを対応させる場合、休眠口座の扱いや連絡が取れない保有者への対応などが挙げられる。
それにも増して大きな課題となりそうなのは、今回の施策における利用者(個人)側のメリットが今のところ分かりづらいことだ。納税や社会保障受給の公平性が高まる可能性はあるにしても、何か便利になることがあるのかどうか不透明であることは否めない。
それよりも、今回の施策は政府が個人のフトコロをいつでも覗ける仕組みをつくろうとしているとの疑念が広がりかねない。そこはどうやら、個人情報やプライバシーの保護への対策が講じられるようだが、例えば口座の確認については不正の疑いがある場合に限ることなどを制度として明示すべきだろう。
そうしないと、先頃施行された特定秘密保護法のもとで、政府が個人のフトコロを常に覗いていたとしても国民には知らされない事態が常態化する可能性だってゼロとは言えない。万一そんな疑念が広がれば、おそらく銀行預金の仕組みそのものが大きく揺らぐことになるだろう。
改めて強調しておくと、今回の銀行預金口座とマイナンバーの紐付けは、非常に重要な意味のある動きである。1つ間違えば、世の中に不信感が蔓延しかねない施策だ。政府や銀行が十分な説明を行うのは当然だが、一方で私たち利用者もその意味をしっかりと把握できるように努めたいものである。
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