出版の現状を見ると、1996年に2兆6000億円の市場規模をピークに減少傾向だ。漫画も同様で、1995年をピークに減少している。単行本1冊あたりの売り上げもピーク時の半分程度であるのに対して、電子書籍は成長市場であり、2020年には紙の市場を超える可能性がある。しかし現状、出版業界は著作隣接権を主張し出版社が著作を管理しようとする動きがあるなど、新しい動きに対応しきれていないと佐藤氏は語る。
電子書籍基盤「漫画 on Web」を設立した佐藤秀峰氏
「出版という産業は、いまだ新しい市場へ目を向け切れていない。出版社に権利を持たせることが漫画家の利益につながるかを考えた結果、データを大事にしまいこんで厳格に管理するのではなく、作品をどんどん広く多くの人たちに使ってもらい作品が広まることで作家にメリットがあるのではと考え、実験的に取り組んでみた」(佐藤氏)
佐藤氏の著作フリーの取り組みは、1年間で712件のウェブや雑誌など、さまざまなコンテンツに利用された。利用用途として、企業の製品広告、パロディ漫画、著作を使ったMADコンテスト、選挙などのキャンペーン広告やポスター、チラシ、グッズなどさまざまだ。Amazonにも『ブラックジャックによろしく』が0円で販売され、一時期は電子書籍ランキングで同作品が上位にランキングするほどだったという。
著作フリーの結果、同作品の認知率は大幅に向上。同作品の電子化を受けて、佐藤氏の他の作品のほとんどが電子書籍化された。同作品の続編である『新ブラックジャックによろしく』は、販売数が急増し、佐藤氏の他の作品も関連書籍として電子書籍の売り上げに大きく寄与したという。
「作品をフリーにした2012年から2013年9月までの一年間で、売り上げは1億5300万円以上になった。そのうち、印税などのロイヤリティとして手元には7000万円以上が残った。この売り上げは、紙の書籍だと140万部以上売れたのと同じくらいの印税額でもある。現時点だと、総額で1億円を越えているかもしれない。実験でやってみた取り組みの反響が、大きかったと同時に、既存の出版業界に対して(電子書籍販売の)あり方を示せたと考えている」(佐藤氏)
他の作家も著作をフリーにしたことで良い影響を及ぼした事例があるとし、作品をオープンにすることでのさまざまな可能性があることを示唆した。
ビックデータ時代のオープンデータに向けて
電子書籍などの新しいプラットフォームの誕生によって、複数基盤でのパブリッシングによるビジネスのあり方が、佐藤氏の事例からうかがえると庄司氏は語る。
「ビジネスや情報の流れが変わってきている。ビックデータ時代のオープンデータや、インターネットやソーシャルネットワークと同じで、直接的だけでなく間接的な影響を通じ、情報の流通や業界のあり方、仕事の仕方を変えていく力がある。これらを踏まえて、コンテンツビジネスの変化を多くの人たち考えてもらいたい」(庄司氏)