「新橋のサラリーマンの多くはビールを飲むことが最大の目的であり、店の作りなどはあまり気にしていない」
こう言い切るのは、新橋など都心を中心に居酒屋20店舗を展開するゲイトの社長、五月女圭一氏だ。「店に特徴を出さないのが特徴」というユニークな視点を持つ。
「くろきん」など居酒屋20店舗を展開するゲイトの社長、五月女圭一氏
ゲイトは、店舗を取得する際に、その物件の現状をできる限りそのまま利用して店作りをする、いわゆる「居抜き」の手法を使っている。物件を改装して店舗として仕立てるには通常3000万円から5000万円かかるが、居抜きの手法を使うと「不動産取得費も込みで500万円~1500万円で済む」(五月女氏)という。
高額な費用をかけて店を作れば、それをまかなうための資金は顧客から受け取らなくてはならない。それよりは「最低限の設備で、おしゃれでも個性的でもなくてもいいので、当たり前の料理やドリンクを低価格で提供したり、安全な食材を仕入れるといったことにこだわった方がビジネスとして成功する」というのが基本的な考え方だ。
こうしたコンセプトで居酒屋を展開するゲイトだが、従業員管理の面で工夫していることが1つある。従業員マニュアルの作成だ。
「昔はビールで乾杯というのが当たり前だったが、今はそれぞれが好きなもの注文するようになった」と五月女氏。これに象徴されるように、顧客の行動が多様化しており、アルバイト店員を前提に店作りを考えるとき、マニュアルを作り直さないと店を運営できなくなってきているという。
だが、変化のスピードは早く「紙のマニュアルでは追いつかず、すぐに陳腐化する。投入する食材の分量を間違えるといったミスもしばしば起きてしまう」。そこで、マニュアルを従業員参加型で積極的に更新、編集していく形式に変えた。
ツールとしてスタディストの「Teachme」を導入した。画像と文字でコンテンツをステップ形式で手軽に作成し、共有できるというサービス。これで、スマートフォンから気軽に閲覧できる従業員マニュアルを作成した。ポイントは「ブレインストーミングと一緒で、否定せず、とにかくスタッフに遊び感覚でマニュアルを更新させること」だという。
例えば、料理に使う食材の分量を都度測るのではなく「最初から測っておけば効率的だ」との工夫が、さまざまな店舗の従業員が共有するマニュアルで紹介された。
また通常はマニュアルに載っていないようなノウハウが、半ば従業員による自慢話のような形で掲載されるという点も興味深い。「泥酔した人の対応の仕方」なども分かるという。
実際のマニュアルの画面。唐揚げの作り方、串類の保管方法などが載っている
接客の現場は戦場
居酒屋チェーンの店内について五月女氏は「戦場と同じ」だと表現する。「接客に追われる様子は戦場の最前線、そこに銃弾を補給する部隊があり、そのイメージで食材や電球などを補給するのが支援部」だという。
スタディストの豆田裕亮氏
「“弾”がなくなったらおしまい」。それくらい接客の現場は厳しく、さまざまな状況に本当の意味で活用できるマニュアルの存在は、現場を助けることになるという。
Teachmeを開発したスタディストは、もともと全員が、トヨタ自動車や日産自動車をはじめとしたものづくりにかかわる経営コンサルタントを務めていたという。同社コンサルタントの豆田裕亮氏は「今も週の半分くらいは、製造業のコンサルティング業務に従事している」と話していた。
Teachmeのように、従来の考え方にとらわれないビジネス運営を手軽に実現できるツールが登場してきているのは、この2、3年でスマートフォンやクラウド、ソーシャルなどが急速に普及したことが背景にあると考えられる。こうしたサービスの今後の進展が楽しみになってくる。