「土管屋」かOTTと戦うか
今回は、この2つの方向性について考えてみたい。
まずは「土管屋」への道、である。この方向性をいぶかる向きもあるが、キャリアとしては実に本質的かつまっとうな戦略である。行うべきは、品質の高いネットワークを構築・運用し、あくまでもそれに徹する、ということに尽きる。
実際、NTT東西が光回線の卸売りを本格検討しているということは、この方向性への一つの証左である。報道などでは、NTTドコモが提供している移動体通信サービスとのバンドル販売が注目されているが、それ以上に「卸売り→最終ユーザーへのコンタクトは別事業者に任せる→特段の付加価値提供は自社では行わない→土管屋」という構図の方が注目すべき点であると考えている。
NTTの再編論にも少なからず影響を与えるであろうこの動きは、地味ではあるが大きな話題なのである。
また、海外においても光ファイバーやアンテナ設置のための鉄塔(タワー)を事業者間で共有する動きがあり、いわゆるレイヤー0(ゼロ)事業者というのは通信産業における戦略として至極真っ当なものなのである。
一方、その正反対の方向性も考えられる。アプリケーションコンテンツサービスを含め、ネットワークサービスにさまざまな付加価値を付けることで、さらなる成長を求めるという動き方である。
世界各国、多くの通信事業者は比較的頑強な財務基盤を有している。それゆえ、その体力にモノを言わせてOTTプレーヤーと正面から戦いを挑むことは無理なことではない。
しかしながら、連載第1回で述べたとおり、単純な競争関係になることは、双方にとって望むべきことではない。協調すべき関係なのである。
そういった意味で、既に各社とも実行しているが、通信事業者がベンチャーキャピタル的な動きを見せていることは非常に望ましいと考えている。新規事業開発、あるいは新サービス開発において、自社に閉じることなく有望なアプリケーション・コンテンツを持つあるいは開発する可能性のあるベンチャーに投資をするというのは、前述のとおり、頑強な財務基盤のなせる業であり、キャリアとOTTプレーヤー(の卵)との理想的な関係だといえよう。