通信のゆくえを追う

NTTの再編論にも与える動き--土管屋かOTTと対決か - (page 3)

菊地泰敏(ローランド・ベルガー)

2014-07-14 07:30

通信事業者が取り組むべき2つの課題

 さて、いずれの方向性を選んだとしても、通信事業者が取り組むべき課題が2つある。いずれの課題ともすべての通信事業者が認識しているところであるが、なかなかそこに向けた具体的な動きを取りにくい課題であるため、改めて記しておきたい。

 1つが、従量制であり、もう1つが不採算サービスの廃止(サービスのライフサイクルマネジメント)である。

 従量制については、連載第4回で触れたのであまり繰り返す必要はないが、利用者のネットワーク利用量と利用料は比例的な関係であることが望ましく、それが公平性につながる、ということである。しかしながら、NTTドコモの通話料定額化の動きなど、これに反する動向もあり、なかなか難しい課題であると言わざるを得ない(そもそも定額化が望ましいという意見もあるであろう)。

 もう1つの不採算サービスの廃止は、キャリアにとっては永遠の課題である。サービス業であるため、不採算であったとしてもユーザーが付いている限り、なかなかとどめることは難しい。そもそもなにをもって「不採算」という判断をするのかが非常に難しいのである。

 複数のサービスで共用される設備コストの配賦基準を考えるだけでも喧々諤々になることは明白である。あるいは不採算サービスであったとしても、特定の大口顧客が、その不採算サービスとほかの採算に乗っているサービスとを併せて利用している場合、この不採算サービスを廃止することは、優良顧客の離反を招く、という状況につながるのである。

 このサービスのライフサイクルマネジメントについては、別途ローランド・ベルガーの「視点」というマネジメント向けコラムでも論じているので、参照していただければ幸いである。

 この解決の難しい2つの課題があるとはいえ、情報通信産業は成長産業であり、国としても成長のドライバーであると認識している。キャリアが元気であれば、国全体が元気になるといっては言い過ぎかもしれないが、大きな期待を寄せられる数少ない産業であることに異論はないであろう。

 1年にわたる連載を通じ、多くの読者の方々から感想や叱咤激励を頂戴した。この場を借りてお礼を申し上げるとともに、改めて感想やコメント、あるいはお叱りの言葉などいただければ幸いである。

菊地 泰敏
ローランド・ベルガー パートナー
大阪大学基礎工学部情報工学科卒業、同大学院修士課程修了 東京工業大学MOT(技術経営修士)。国際デジタル通信株式会社、米国系戦略コンサルティング・ファームを経て、ローランド・ベルガーに参画。通信、電機、IT、電力および製薬業界を中心に、事業戦略立案、新規事業開発、商品・サービス開発、研究開発マネジメント、業務プロセス設計、組織構造改革に豊富な経験を持つ。また、多くのM&AやPMIプロジェクトを推進。グロービス経営大学院客員准教授(マーケティング・経営戦略基礎およびオペレーション戦略を担当)

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