8月4日に掲載した記事ZDNet Japanの記事「エンタープライズモバイルは企業を「再設計」する」に、筆者であるデロイト トーマツ コンサルティングの千葉友範氏による示唆に富む解説があった。
「スマートデバイスが、これまでコンピューティングパワーの恩恵を受けにくかった製造ラインや建設、接客の現場といったフィールドワーク分野に本格的に導入されるようになる」
従来はモバイル端末を導入しにくかったようなさまざまな業種の現場に、タブレットやスマートフォンなどのスマートデバイスが導入され始めると予想される。例えば、日本航空(JAL)や全日空(ANA)のフライトアテンダントにiPadが配られ、空の上での接客をはじめ、通常業務を支える道具として活用されていることが広く知られている。
JALのシステム担当者は次のようなことを話していた。
「運航部門や整備部門などの業務には膨大なマニュアルがあり、しかも頻繁に改訂される。メーカーが機材の仕様を一部変更したり、空港の設備が更新されたり、各国の航空規制が変わるなど、航空業界では世界中で小さな変更が繰り返されている。マニュアルの更新情報をスマート端末で把握できるようになった」
IT化は航空業界の業務も大きく変えてきた。以前は、緊急度の高い内容でない限り、フライトの報告などは、乗務員が帰国してから紙の書類として提出していたという。だが、モバイル化により、到着地空港のオフィスなどで即座に入力できるようになり、会社としてリアルタイム性の高い情報を活用できるようになった。
また、着陸後に長い時間待たされたが、整備士がそれを丁寧に説明したことに好感を持ったとの「顧客の声」を伝え聞いたことで、普段は乗客と直接触れ合う機会のない整備部門の担当者が、サービス業の一員であると強く意識する機会になったという、顧客サービスにかかわる効果も出たとのこと。
一度は経営破たんし、2010年1月に会社更生法適用を申請したJALは、全社的視点からグループウェアやスマートデバイスの導入に力を入れ、IT部門がそれをリードしたという。
スマートデバイスで企業が競争力獲得を目指すことを考えた場合、それを指揮するのはIT部門の大きな役割になってくる。千葉氏はエンタープライズモバイルについて「IT事業者のビジネスモデルやIT部門の役割、あり方を大きく変革するもの」と指摘する。
システムインテグレーターやIT部門の役割が今後激減するとの話題が最近聞かれるが、長期にわたるERP導入プロジェクトの減少や人月主義の限界といった事情は、これまでにさまざまに指摘されていたもので、今になって話を大きくするようなものではない。
実際問題として重要なのは、クラウドやモバイルの進展が、従来はITとかかわりのなかったモノを巻き込む点であり、それを取り込むには戦略的な考え方やアイデアが求められる。その意味で、企業のIT部門は今後、さまざまな意味でおもしろい局面を迎えると考えられる。
8月27日にエンタープライズモバイルセミナー開催
ZDNet Japanでは、8月27日の13時から、東京・秋葉原の富士ソフト アキバプラザ5F アキバホールにて、ZDNet Japan エンタープライズモバイルセミナーを開催する。基調講演を千葉氏が務め、エンタープライズモバイルが普及する中でのIT部門の役割やセキュリティ対策についてのヒントを紹介する。奮って参加していただきたい。