コンシューマーITがエンタープライズに入る”コンシューマライゼーション”が言われて久しいが、企業のIT部門は何に取り組めばいいのか。ガートナー ジャパンで主席アナリストを務める針生恵理氏は「ユーザーを中心としたコンテキスト対応型サービス」が重要になると述べる。ユーザーを取り巻く環境が変わる中、ITも新しい技術を学ぶ必要があるという。
針生氏は4月25日、都内でガートナーが主催した「ガートナー ITインフラストラクチャ、オペレーション・マネジメント&データセンター サミット 2018」で、エンドユーザコンピューティングトレンドについて話をした。
これまで企業のエンドユーザーは端末を持ち出せないなど制限の強い”窮屈なIT”だった。だがユーザーは日常でコンシューマーITの便利さを享受しており、それまでの企業のITでは満足できない。「ユーザーに必要なものを提供することが重要だ」と針生氏。中でも「いかに成果を出すか、そのために何を提供するのかーー”アウトカム(成果)”が重要だ」という。
ガートナーはエンドユーザー関連技術のハイプサイクルで約30の技術を並べているが、これらの新しい技術を闇雲に入れるのではなく、どんなアウトカムを出したいのか、それにどの技術がフィットするのかの視点を持つといいようだ。
Gartnerのエンドユーザー関連テクノロジのハイプサイクル。
ガートナーでは将来のエンドユーザーITの姿を「ユニファイドワークスペース」と称している。ユーザー中心、アプリケーションの独立性、コンテキスト化の3つの要素により、シームレス(いつでも・どこでも・誰でも)なITを実現し、ユーザーがアウトカムを出すことができるというものだ。
実現する技術要件として、以下の7つを挙げた。
- クライアントをシンにする
- セルフサービス/セルフサポートの提供
- デバイス選択の自由
- クラウドオフィスコミュニケーション/コラボレーション
- エンタープライズファイル共有/同期
- エンドポイント管理
- セキュリティ/ID管理
例えば、デバイス選択の自由に該当するBYOD(個人用端末を業務で利用)は、日本でも増えつつあり現在BYODを認める企業は32%に達しているという。だが、北米の7割に比べるとまだ少数派だ。だが「BYODが全てではない」ともいう。会社支給デバイスでも選択肢を増やすCYOD(Choose Your Own Device)もあり、重要なものをデバイスに保存できないが、使いやすいアプリは使っていいようにするなど、生産性と柔軟性を提供することはできるという。
ユニファイドワークスペースの成功例として紹介したのがIBMだ。IBMは2014年のAppleとの提携により、従業員向けのPCとしてMacを選択できるようにしている。目的は、従業員にデバイスの選択肢を提供すること。これにより柔軟性を与え、発想力を高めることだったというが、結果としてMac1台につき270ドルのコスト削減につながったという。
コスト削減の多くはサポートコストだ。IBMはMac導入に合わせセルフサポートなどのプロセスの再構築を行なっており、これが奏功したのだ。ヘルプデスクへの依頼がWindowsユーザーは40%であるのに対し、Macユーザーは5%以下というデータもあるそうだ。
また、Macはレガシーアプリが少なく、OSに依存しないアプリケーション思考の継続に適していたという点も針生氏は指摘する。IBMはユーザーに選択肢を与えるだけでなく、メリットとのトレードオフ(利用できないアプリがあるなど)も明確に伝えており、ユーザーは数週間試して自分に合うデバイスを選択できた。これらが高い満足につながったという。IBMはこの成果を受け、Windowsについても同様のポリシーを適用することを検討中とのことだ。