クラウドコンピューティングが登場して5年以上が経ち、いよいよコンセプトとして評価された時代から、ほとんどの企業が具体的な導入を検討、実践する時代になりました。北米では既にクラウド業界の浸透により、レガシーIT企業、それも大手ベンダーが大きな事業転換を強いられるようになり、クラウド業界内部でも既に世代交代が始まりつつあります。
日本でも大手IT企業、ホスティング事業社、インターネットサービス企業、テレコム事業者のほとんどが自社独自のクラウドソリューションを打ち出し、積極的な事業展開を図っています。
クラウドは今までと根本的に異なる
一見、ごく自然な形、それも各社共存し得るような市場構造と規模を持っているように見えるクラウド業界ですが、今までのITの歴史を通して、このいわゆるクラウドの登場によるパラダイムシフト、というものは、いかに従来のパラダイムシフトと異なっているか、という点を考える必要がある、と感じています。
その要因は、クラウドコンピューティング自体が決して技術的なイノベーションでない、という点です。クラウドの基本技術に関わる特許は存在しないし、特定の企業がそれによる優位性を誇っている、という話は聞いたことがありません。過去は、IBMのメインフレーム、DECによるオフコン、Sun MicrosystemsによるUNIX、そしてMicrosoftのWindowsなどIT業界が大きな変遷を遂げた時代がいくつかありました。
いずれも特徴的なのは、ある特定のIT企業が、とある基盤技術(多くは特許によって守られています)を通して、市場に対する事実上の独占的な地位を確保した、というシナリオです。IT業界は、こういった事実上の標準化(デファクトスタンダード)にけん引された歴史が繰り返されて成長して来た、と言われています。
クラウドコンピューティングというパラダイムシフトは、過去の歴史と大きく異なる展開を見せているという点にまず注目すべきだと思います。
1つは、特定の企業が独占的にけん引していない、という点です。もちろん、Amazon Web Services(AWS)はクラウド、それもIaaS市場の立役者、リーダーとして広く受け入れられていますが、強大な市場シェアは確保しつつも、決して独占的な牙城を確保しているわけではない、と考えます。先述の通り、特許や何らかの法的手段をもって技術を保護しているわけでもないですし、IaaS業界は他にも大勢のベンダーがAWSに何ら制限を受けることなく、多大な投資をもってクラウドコンピューティング事業を展開しています。
強いてあげれば、AWSは他社より先にIaaSのコンセプトを実践し、市場に広く受け入れられた、という先行的特権をもっている、という点です。現に、Microsoft AzureとGoogle Computing Platformなどは急激に追いつきつつありますし、市場もマルチクラウド/ハイブリッドクラウド時代の到来を迎えているのは周知の通りです。