NSA告発を描いた話題の映画「CitizenFour」レビュー:スパイ行為の暴露を語るスノーデン氏の実の姿

Wendy M Grossman  (ZDNet UK) 翻訳校正: 藤本京子 2014年12月20日 10時00分

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 Laura Poitras氏は、1通のメールを受け取った。

 「CitizenFour」は、アメリカ政府機関のスパイ行為を暴露したEdward Snowden氏に関するドキュメンタリー映画である。Poitras氏監督によるこの映画を見ていると、1970年代に起こったウォーターゲート事件の捜査を描いたCarl Bernstein氏著書の「All the President's Men」(「大統領の陰謀--ニクソンを追いつめた300日」立風書房 1974年、文春文庫 1980年、文春文庫 新版2005年、1976年に映画化)という本を読んでいるような気分になる。映画は再現ドラマだが、本には事実のみが描かれているためだ。この2つの事件について知っている人は多いが、どのようにして起こったのかはあまり知られていない。CitizenFourの冒頭にてPoitras氏は、この映画が2001年9月11日の米国同時多発テロ事件に対する3部作の最終章であると説明している。第1章は2006年公開のイラク戦争に関する映画「My Country, My Country」で、第2章は2010年公開のグァンタナモで起こった事件に関する映画「The Oath」とのことだ。


Citizen Four ● 監督:Laura Poitras ● 2014年10月 ニューヨーク映画祭にて公開

 Poitras氏に宛てた最初のメールにて、Snowden氏は自身のことを「CitizenFour」と名乗り、情報提供したいので安全なコミュニケーション手段が必要だとの意向を示したという。その数カ月前にSnowden氏はジャーナリストのGlenn Greenwald氏にアプローチしたが、その後連絡は途切れてしまった。Poitras氏は何とか安全にコミュニケーションできる方法を考え、彼女とGreenwald氏はこの若くして緊張した面持ちのSnowden氏に香港のホテルの一室で会うこととなった。

 情報はあっという間に広がった。The Guardianに掲載されたGreenwald氏の記事が全世界にて報道されたのだ。米国家安全保障局(NSA)と政府通信本部との間で交わされた特有のコミュニケーション監視に関する資料である。The Guardianでは、どこまで報道していいのか、いやどこまで報道すべきか悩んで神経質になり、ハードディスクを一部破壊するまでに至っている。スパイ活動は、独首相であるAngela Merkel氏の携帯電話や、何百万人にも及ぶブラジル人の個人情報にまで及んでいた。そのため、聴聞は米国首都ワシントンや欧州連合、ブラジル国会など多岐に渡った。オバマ大統領は報道陣に対し、Snowden氏が愛国者ではないとし、公開討論に発展する可能性のある調査を指示したと述べた。Snowden氏は国連にかくまわれ、次にモスクワへと移り、同氏と長年付き合っているガールフレンドもモスクワへと飛んだ。最終的にGreenwald氏とSnowden氏は、すべてのコミュニケーションが傍受される可能性があるとして(実際に映画まで撮られているのだから)、紙に書いてコミュニケーションを図った。ウォーターゲート事件の捜査における情報源Deep Throatのように、彼らはガレージで直接会うように指示された。

 国家特有のスパイ活動について世界に警告を与えようとしたのはSnowden氏が最初ではない。しかし、証拠を示したのは彼が最初である。映画には、ハッカーのカンファレンスなどでよくNSAについて暴露しているWilliam Binney氏も登場する。同氏によると、NSAは「姿を隠すこと」について不平をもらしているが、歴史上彼らほど多くのデータにアクセスできている機関はないという。

話の本筋は「人」ではなく「スパイ行為の暴露」

 映画では、Snowden氏、Greenwald氏、Poitras氏以外についてはあまり描かれていない。特にSnowden氏以外の人物は、姿が見えないまま声だけが聞こえるといったシーンも多い。すでに何が起こったのか知っている人にとって、映画の内容は新しくないかもしれないが、Poitras氏はこの映画にて、Snowden氏自身が物語の中心になるべきではないという彼の考えをうまく表現している。この一連の出来事を見ながら、この件に対する英国最大の反応がデータ保持と調査権に関する法令の可決であったという事実を考えると、何とも複雑な気分になる。

 もしかするとこの映画があまり重く感じないのは、このSnowden氏のこだわりのせいかもしれない。映画では、Greenwald氏のパートナーがヒースロー空港で9時間拘束されたことや、Snowden氏と彼のガールフレンドが過去10年間に渡ってオンラインでチャットし、Snowden氏が何をしたのかや彼女が今後どう協力するかといったことを話している様子など、個人的な場面も描かれているが、話の本筋は政府機関にはびこるスパイ行為の暴露となっている。映画では、Snowden氏がどうやって生活しているのか、またモスクワの空港ターミナルで40日間も拘留された際にいかにして生き延びたのかなどは描かれていない。ただ、この映画から考えるべきことは多い。

 通信の匿名化を可能とするソフトウェアTorの開発者であるJacob Appelbaum氏は、映画の後半で次のように述べている。「われわれが過去に自由や解放と呼んでいたものは、いまやプライバシーと呼ばれるようになった。そして今、プライバシーは死んだと言われている」

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連ホワイトペーパー

SpecialPR

  • デジタル変革か?ゲームセットか?

    デジタルを駆使する破壊的なプレーヤーの出現、既存のビジネスモデルで競争力を持つ
    プレイヤーはデジタル活用による変革が迫られている。これを読めばデジタル変革の全体像がわかる!

  • ビジネスの継続的な成長を促す新たなITのビジョン

    多くの企業においてITに求められる役割が、「守り」のコスト削減から「攻め」のビジネス貢献へとシフトしつつある。その中でIBMが提唱する新たなビジョンEnterprise Hybrid ITとは?

連載

CIO
研究現場から見たAI
ITは「ひみつ道具」の夢を見る
内製化とユーザー体験の関係
米ZDNet編集長Larryの独り言
今週の明言
「プロジェクトマネジメント」の解き方
田中克己「2020年のIT企業」
松岡功「一言もの申す」
林 雅之「デジタル未来からの手紙」
谷川耕一「エンプラITならこれは知っとけ」
Fintechの正体
内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」
情報通信技術の新しい使い方
三国大洋のスクラップブック
大河原克行のエンプラ徒然
コミュニケーション
情報系システム最適化
モバイル
通信のゆくえを追う
セキュリティ
セキュリティの論点
ネットワークセキュリティ
スペシャル
座談会@ZDNet
Dr.津田のクラウドトップガン対談
CSIRT座談会--バンダイナムコや大成建設、DeNAに聞く
創造的破壊を--次世代SIer座談会
企業決算を追う
「SD-WAN」の現在
展望2017
IBM World of Watson
de:code
Sapphire Now
VMworld
Microsoft WPC
HPE Discover
Oracle OpenWorld
Dell EMC World
AWS re:Invent
PTC LiveWorx
古賀政純「Dockerがもたらすビジネス変革」
さとうなおきの「週刊Azureなう」
誰もが開発者になる時代 ~業務システム開発の現場を行く~
中国ビジネス四方山話
より賢く活用するためのOSS最新動向
「Windows 10」法人導入の手引き
Windows Server 2003サポート終了へ秒読み
米株式動向
実践ビッグデータ
日本株展望
ベトナムでビジネス
アジアのIT
10の事情
エンタープライズトレンド
クラウドと仮想化