製品ライフサイクル管理(PLM)ソフトウェアを手掛ける米PTCは近年、IoT(Internet of Things)を実践するためのソフトウェアを拡充している。2013年12月にはIoT向けアプリケーション開発運用プラットフォームを提供する米ThingWorxを、2014年8月にはM2Mソフトウェアを開発する米Axedaを買収した。
米PTCでIoT/SLM部門エグゼクティブバイスプレジデントを務めるRob Gremley氏は「現在、IoT市場の伸び率は年35~40%増だが、PTCのIoT部門はこれを超える成長率で伸びている」と強調する。
「IoTで製造業のビジネスモデルは変革する」と主張するGremley氏。PTCの製品ポートフォリオにおいても、IoT分野の役割はさらに重要になると語る。
「過去、製品ライフサイクルにおいては、実際の使われ方に関する情報が収集しにくいという課題を抱えていた。しかし、IoTによってその課題は解消される。さらに製品の稼働状況がリアルタイムに収集できれば、その情報を基にした新サービスが開発できるだろう。例えば、医療機器などは販売価格が高く導入までのハードルが高い。しかし、使用に応じて課金するモデルであれば、“モノを販売する”という従来とは違ったビジネスモデルの可能性があるはずだ」(Gremley氏)
サービスライフサイクル管理 (SLM)や製品ライフサイクル管理(PLM)などのポートフォリオにIoTが組み込まれたことで、フィードバックを繰り返すことで結果が増幅される「フィードバックループ」が充実するというのがPTCの主張だ。
ただし、Gremley氏は「開発からデザイン、製造、運用、サポートに至るまでの“クローズドループ ライフサイクル マネジメント”の連携を強固にするためには、データ解析分野が手薄だ」と語る。
「IoTにおいてデータ解析は最も成長を見込める分野である。PTCは今後この分野を強化する。データ解析ソフトウェアを自社で開発するのか、買収によって補完するかの決断をすることになる。現時点のロードマップでは同分野の拡充が最重要課題と考えている」(Gremley氏)
コンサルティング会社であるMcKinsey Global Instituteは、IoTによる経済効果が2025年までに年2兆7000億から6兆2000億ドルに達すると予測している。Gremley氏は「特にIoT導入が早い業界として、医療機器やATM(現金自動預け払い機)など、ある程度整った環境で利用する分野だ」と説明する。
また、重工業系の産業機械は、すでに自社でセンサーを開発し、情報収集に取り組んでいる企業もある。こうした企業が自社システムをリプレースする際に、PTCのソリューションに移行するケースが多いという。
独自進化を遂げた日本のIoT
PTCジャパンの社長を務める桑原宏昭氏
新たな市場として注目されるIoT市場。では日本企業の取り組みは、どの程度進んでいるのだろうか。PTCジャパンの社長を務める桑原宏昭氏は「自社運用で製品から情報を収集していた企業は、IoTという言葉を待つまでもなくあった」と説明する。
最も代表的な事例は、コマツの「KOMTRAX」だ。建設機械の稼働状況を一元管理するKOMTRAXは、全世界にある建設機械にセンサを取り付け、通信回線経由で機械の稼働状況や消耗品の交換時期などの情報を取得。同情報を顧客に提供するとともに、自社でもデータを解析し、顧客へのアドバイスや次の製品開発に役立てている。
「KOMTRAXは10年以上前から活用されており、完成度が高い。しかし、すべて自社で運用し続けるとなると、改変やメンテナンスなどに手間がかかる。われわれは、そうした分野で支援できる」(桑原氏)。
日本システムウエアの調査によると、自社開発システムとThingWorxの効率性を比較した場合、ThingWorxの方が約10倍の開発生産性があったという。桑原氏は「IoTではデータをモニタリングし、改変を繰り返して生産性を向上させることが重要だ。スピード感を持ってIoTアプリを提供するには、自社開発だと限界がある」と訴求する。
「日本企業のIoTに対する関心は高い」と説明する同氏。日本でThingWorxのセミナーを開催すると、想定を超える反響があるという。特に、電気、ガス、水道、鉄道など、公益系企業が予防措置としてモニタリングシステムとして導入を検討したり、商社が自社の顧客にIoT関連のシステムを提供するために検討するようなケースが多い」という。
今後のビジネス戦略について桑原氏は「以前はCAD分野が中心だったが、現在最も伸び率が大きいのはPLM分野だ。日本でのビジネスは好調で、売り上げは過去4年間で1.5倍、ライセンス数は2.5倍を達成した。今後IoT分野が加われば、日本でのビジネスはさらに成長すると確信している」と自信を見せた。