第2回となる今回は、医療・医薬の世界におけるICTの利活用について考えてみたい。
この分野におけるICTの利用については、前回もご紹介した「新たなICT戦略に関する提言 デジタル・ニッポン 2013」(自民党)でも取り上げられており、また、2014年の情報通信白書においても「ICTのさらなる利活用の進展」において、いくつかの事例が紹介されているとおり、注目されているテーマである。
しかしながら、それらで触れられているのは遠隔医療であり、医療情報の連携であり、本コラムの読者の皆様にとっては、いずれどこかで耳目に触れたことがあるのではないかと思う。
第1回の冒頭で述べた通り、一般にはあまり注目されていないICTの使われ方、今後成長が期待できる使われ方にフォーカスを当てて紹介する。今回は「情報薬」と「テラヘルツ技術の利用」について述べてみたい。いずれも初めて目にする言葉、概念なのではないかと思われる。
まずは「情報薬」について
人は(あるいはペットや家畜などの動物も)、病気にかかると医者の診断を仰ぎ、それに従って治療を行うことになる。自宅で療養ということもあれば、重篤の場合には入院や外科手術を行うこともあるであろう。いずれの場合であっても、必ずといっていいほど「薬」が処方される。
薬は、経口薬や貼付薬、注射薬などさまざまな形で体内に投与されるが、実際の薬効とともに「薬を服用した」という心理的な効果(いわゆるプラセボ効果)があることが知られている。
このように、薬剤そのものではなく、情報を提供することで直接、間接に体調が好転するという作用を積極的に利用しようというのが「情報薬」のコンセプトである。
このコンセプトの提唱者は札幌医大の教授、辰巳治之教授であり「薬を飲む代わりに、情報を飲む(与える)」と定義づけており、1つの例として、失明した患者がテレビからパラリンピックの話を聞き、希望を取り戻した、というものが挙げられている。読者の皆様においても思い当たる経験があるのではなかろうか。
どのような情報薬がどのような患者に効くかについては、個々の事情によるため一般化することは困難であるが、テーラーメードメディシン(パーソナライズドメディシン。個人の遺伝子特性に合わせ、特定の個人に効くように作られた薬)のような「薬効」を期待することができよう。
また、この概念は治療のみならず予防や改善にも用いることが可能である。例えば、高脂血症まではいかないが、健康診断で要注意と診断された人が、仕事帰りの一杯の後にラーメンを食べたくなったとき、それを思いとどまらせるようなメールがそのタイミングで届けば抑制効果が期待できよう。また、禁煙に挑んでいて、つい「一本だけ」の誘惑に駆られそうなときにも、同じようなことが言える。
このようなことが可能になるためには、個々人の生活習慣や行動パターンなどがデータ化されていることが重要であり、さらにバイタルデータを含むさまざまなデータがリアルタイムでセンシングできることが必要である。
情報を薬として利用するためには、実際の新薬の開発と同様、どのような情報が薬として使えるかという「創薬」活動とともに、いつどんなときに誰に処方するかという「処方せん」を開発し、それを的確に「処方する仕組み」が求められるのである。