第5回となった今回は、情報通信技術が発達すると、アービトラージが進むということについて紹介する。
アービトラージ。日本語では、裁定取引、あるいはもっとくだけた表現では鞘取り(さやとり)と呼ばれている。平たく言えば、安いものを買ってきて高く売れば、その価格差で利益が出るということだ。
このアービトラージが成立する条件にはいくつかあるが、例として2つ挙げてみよう。
1つは、複数の市場で取引されている同一のモノの取引価格について、その両方の取引価格を知っているのは自分だけであるという場合である。
ある特定の市場Xでxという価格で売られているモノが、別の市場Yではyという価格で売られており、その情報を知っているのが自分だけであれば、安い価格で仕入れ(例えば、x<yであれば、X市場において価格xで仕入れ)、高い価格で売却すれば(Y市場で、価格yで売却すれば)利益が出る(y-xが売却益)。
もう1つは、価格変動が大きなモノの取引において、いち早く価格情報を入手できる(かつ、すばやく売買を成立させうる)という場合である。
1つ目の場合、自分だけが情報を入手しているということが大事であり、2つ目の場合、情報入手とその情報の利用において、他者に先駆けることが肝要である。
いずれにせよ、いわゆる情報戦ということであり、ありとあらゆる手を尽くし、他者の知りえない情報をいち早く入手することが成功への道である。
例えば、株式市場を考えてみれば、いずれも理解していただけるものと思う。世界中に張り巡らされた情報ネットワークを基に、あらゆる投資家が情報戦を繰り広げている。
情報戦において、コンピュータの高性能化により扱えるデータが大量化したことはもちろん重要であるが、ネットワークの高速化も同様に重要な役割を果たしている。
この「ネットワークの高速化」には2つの意味が内包されている。単位時間当たりに伝送できるデータ量が増えた(例えば100Mbpsの世界から1Gbpsの世界になった)ということと、海底ケーブルの普及により地球上どこにでも遅延の少ないネットワークが張り巡らされたことである。
これにより、デイトレードでアービトラージを狙う個人投資家も存在している。また、法人(プロ)の投資家においては、ハイフリクェンシートレーディング(HFT)と呼ぶ大型コンピュータを用いた自動売買システムで、アービトラージを狙っている。このようなプロの投資家の場合、ネットワークも高速かつ低遅延であることが命なので、海底ケーブルのルートや、その海底ケーブルの陸揚げ局までのルートも指定することが多い。
このように、アービトラージは情報戦であり、情報戦のためにはICT技術の発展は欠かせないのである。