情報通信技術の新たな使い方

情報通信技術が発達すると「アービトラージ」が進む - (page 3)

菊地泰敏(ローランド・ベルガー)

2015-06-09 07:30

 実は、音声通信の世界においても、トレーディングとそれによるアービトラージは長い歴史を持っている。

 国際音声通信、すなわち国際電話のサービスを提供する上で、トレーディングという概念は欠かせない。

 例えば、日本からブラジルに国際電話をかけるときの場合を考えてみよう。このとき、日本の通信事業者(例えばKDDI)からブラジルの通信事業者(例えばBrastel)に直接接続されているルートで電話が通じていると思われるかもしれない。もちろん、そのようなダイレクトルートでつながる可能性が高いのだが、曜日や時間帯などにより、その通話は(例えば)イタリアを経由しているかもしれないのだ。

 なぜか。その方が、日本の通信事業者の利益が大きくなるからだ。

 上記の例でそのからくりを説明してみよう(以下、数値は例示)。

 日本からブラジル向けの国際通話料金は1分間145円である。このうち70円ほどをKDDIからBrastelに支払うと、KDDIの取り分は75円となる。

 ここで、もし40円でブラジル側のエンドユーザにつないでくれる通信事業者がいれば、KDDIの取り分は100円になる。例えばイタリアの通信事業者がそのような役割を果たしてくれるのなら、KDDIからイタリアを経由し、ブラジルに通話がつながるのだ。

 このときのイタリアの通信事業者の役割を「トランジットキャリア」といい、実は世界中にはトランジットキャリアがたくさん存在するのだ。というよりも世界のメジャーな通信事業者は、いずれもトランジットサービスを提供している。

 情報通信技術が発達するとトレーディングによるアービトラージビジネスが発達する。金融(証券、債券など)が目立つが、それ以外にもさあざまなトレーディングがある。電力や国際電話でさえも対象になるのである。

 新たなビジネスは、ICTの発展とともに開花する。

菊地 泰敏
ローランド・ベルガー パートナー
大阪大学基礎工学部情報工学科卒業、同大学院修士課程修了 東京工業大学MOT(技術経営修士)。国際デジタル通信株式会社、米国系戦略コンサルティング・ファームを経て、ローランド・ベルガーに参画。通信、電機、IT、電力および製薬業界を中心に、事業戦略立案、新規事業開発、商品・サービス開発、研究開発マネジメント、業務プロセス設計、組織構造改革に豊富な経験を持つ。また、多くのM&AやPMIプロジェクトを推進。グロービス経営大学院客員准教授(マーケティング・経営戦略基礎およびオペレーション戦略を担当)

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