現代のICTは生活や仕事をどう変えるのか
総務省が毎年7月に刊行している「情報通信白書」の平成26年版を解説する本記事、後編ではますます社会や生活に浸透するICTの現在について取り扱う。
スマートフォンやタブレットの現状
スマートフォン、タブレットなどが普及して久しいが、これらはライフスタイルやワークスタイルをどう変えているのだろうか。国内ではスマートフォンの普及率は平成25年末で62.6%、タブレットは21.9%と伸びている。また、ソーシャルメディアもLINEが幅広い年代でのユーザーを獲得している。世界的に見ても、2013年にスマートフォンは全携帯電話の半数以上、タブレットもPCの出荷台数に迫ってきている。
「主な情報通信機器の世帯保有状況(平成20~25年)」出典:「平成26年版情報通信白書」(総務省)、原出典:総務省「平成25年通信利用動向調査」
「ソーシャルメディアの利用率」出典:「平成26年版情報通信白書」(総務省)、原出典:総務省情報通信政策研究所「平成25年 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査<速報>」より作成
国際比較では、海外先進国ではスマートフォンの普及が2~5年前に始まっているのに対し、国内では開始が遅く、フィーチャーフォンが未だ優勢である。一方、国内ではLTEの普及率が高く、スマートフォンの使用頻度が高いなどの強みもある。スマートフォンとフィーチャーフォンの比較では、スマートフォン利用者に明らかにデータ回線や無線LANの契約が多く、端末の使用時間でも携帯電話によるインターネットアクセス時間はスマートフォンの方が非常に長い。
これをより詳しく見ると、インターネットサービスの利用について、スマートフォンユーザーはSNS、Eコマース、チャット、ソーシャルゲーム、動画視聴などでフィーチャーフォンよりも圧倒的に利用率が高い。
ネット利用の最大の目的についても、スマートフォンユーザーは「コミュニケーション」が大きな比率を占めており、LINEなどのチャットや音声通話サービスが影響力を及ぼしていることがわかる。このほか、電子書籍やEvernoteなどのパーソナルクラウド、モバイル決済などがまだ普及率は高くないにせよ注目を集めており、成長が予測できる。
「SNS・動画視聴・Eコマースの利用状況の違い」出典:「平成26年版情報通信白書」(総務省)、原出典:総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)
新しい働き方を推進するICT
さまざまなインフラが整うにあたり、ワークスタイルの変化も予測される。高齢化や女性の就労、介護などの問題にあたっては、ICTを活用したテレワークの普及が重要となる。実際、育児と介護にあたってはテレワークの利用を望む声も多く、2011年以降テレワーク人口は急激に増加している。
一方で、勤怠管理やセキュリティなど、本格的な普及にはさまざまな問題もある。政府の「世界最先端IT国家創造宣言」でもテレワークの普及について言及しており、数値目標も設定されている。
テレワークに適したICTソリューションの開発も進んでおり、マイクロソフトでは在籍確認からビデオ会議、クラウド環境まであらゆるオフィス業務が場所を選ばず可能になっている。また、近年の潮流として、不特定多数の人を対象に業務のアウトソーシングを依頼し、マッチングする「クラウドソーシング」が普及しつつある。案件の規模やスキルも多様になりつつあり、女性の子育て層にも人気が高い。
「育児と介護における希望の働き方(本人と管理職)」出典:「平成26年版情報通信白書」(総務省)、原出典:NTTコム リサーチ/NTTデータ経営研究所「働き方に関する意識調査」(2013年)
「クラウドソーシングのイメージ」出典:「平成26年版情報通信白書」(総務省)、原出典:総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)
生活に導入されつつある実世界関連技術
ICTの近年の発展として、現実世界のデータを解析したり制御する技術や、現実世界と統合されたユーザーインタフェースなどが見られる。データ解析技術では、スマートフォンに導入されている音声検索などの知的エージェント機能や、SNSに投稿された画像を解析できる顔認識技術などが導入されている。
また、ビッグデータへの注目に伴い機械学習などの人工知能への注目も集まっている。さらに、これらをロボットの実世界認識に応用し、人がいるような広い空間での知的作業が可能な進展もあり、災害対策などに活用されつつある。
「ディープ・ラーニングの構造と特徴抽出のイメージ」出典:「平成26年版情報通信白書」(総務省)、原出典:総務省「ICT先端技術に関する調査研究」(平成26年)
車のICTについて、日本は進んでいるが世界的な競争に伴いさまざまな新技術が続々と登場している。通信機能を自動車に持たせた「コネクテッドカー」は、スマートフォンなどとの連携を可能にし、自動車用のアプリケーションの自由度を高めるほか、盗難車両や事故の追跡などもできる。車線を認識してアシストするなど安全運転支援機能も導入されつつあり、自動走行の実験も始まっている。
身に付けることのできるウェアラブル端末も発売され始めている。リストバンド型の端末では歩数や睡眠時間などのヘルスケアに関するものが多く、腕時計型はスマートフォンと連携して情報の通知に主に利用されている。
Google Glassなどのメガネ型の端末も実験的な製品が販売され始めており、ナビゲーションや手術、機体整備などの情報提示など、業務利用への可能性を模索している段階である。一方、プライバシーなど新しい問題もあり、新たな社会的合意も必要になるとみられる。