エンタープライズトレンドの読み方

金融機関に押し寄せるオープンデータの波

飯田哲夫 (電通国際情報サービス) 2015年02月10日 06時30分

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アカウントアグリゲーションの違和感

 アカウントアグリゲーションというサービスがある。金融機関の口座の残高や取引情報を集約してくれるサービスである。2000年頃に米国で始まったアカウントアグリゲーションは、数年後には日本でも提供されるようになった。一時は金融機関が提供するケースも多かったが、最近では、オンライン家計簿などベンチャー系のサービスが積極的にアグリゲーション機能を組み込んでその利便性を高めている。

 しかし、アグリゲーションサービスを利用するためには、事前に収集対象となる口座のログイン情報を登録しておく必要がある。サーバ型のサービスであれば、アグリゲーション機能の提供者にログイン情報を託して、本人になり代わって口座情報を取得してもらうこととなる。

 これは決して標準化されたプログラム間通信によるものではなく、人間によるログインを模倣した原始的な手法によるものだ。金融機関の側からしてみると、ログインしてきたのが本人であるのか、本人に成りすましたコンピュータであるのかは関係なく、要求された情報を出力するのみである。

 ログイン情報を第三者に提供するのだから、セキュリティ面での懸念はある。しかし、複数の金融機関に口座を持つユーザーの側からしてみると、金融機関がセキュリティを強化すればするほど、アグリゲーションの利便性が高まるという皮肉な結果になる。

 現に、アカウントアグリゲーションをサポートしている家計簿サービスは、延べで数百万に及ぶユーザーを擁している。この事実を無視することは、金融サービスの利便性を放棄することに他ならない。

イギリスで始まる新金融ビッグバン

 ところで最近、金融イノベーション界隈では英国の動きが面白い。英国政府は2014年8月6日、同国をグローバルな金融イノベーションのハブにすることを宣言し、さまざまな施策に取り組んでいる。その一環でBitcoinに代表されるようなデジタルカレンシー、UberやAirbnbに代表されるようなシェアリングエコノミーに関するリサーチなどに取り組んでいる。

 こうした試みの中で最も新しいものが、金融領域におけるオープンデータの活用に関するリサーチだ。つまり、金融機関が顧客の口座情報や取引情報から個人情報を排除したデータを公開し、API経由でのアクセスを許容することで、さまざまな金融サービスのイノベーションが起きるのではないかという仮説の検証である。

 英国政府が公表した調査レポート(PDF)によれば、フランスのCrédit Agricole、スペインのBBVA、ドイツのFidor Bankなど、すでに多くのAPI開発事例が存在している。同レポートによると、リテール顧客向けのアドバイスサービスや金融商品の比較、ノンバンクによる融資審査など、金融機関が保有しているデータと連携することにより、さまざまなサードパーティサービスが提供されるようになるとしている。

オープンイノベーションの選択肢としてのオープンデータ

 保有するデータの公開は、サードパーティーによるアプリケーション開発を促すオープンイノベーションの一つの手法である。顧客のデータを守るだけではなく、顧客のコンセンサスのもとにデータを開示することで利便性を高めることができる。

 ただし、そのためにはAPI経由でのアクセスを許容するとともに、アプリ間での認証の仕組みの標準化を推し進める努力が求められる。しかも、顧客が安心できるものを用意しなくてはならない。さらに言えば、顧客の利便性、サードパーティによるアプリケーション開発の利便性を考慮すると、それは業界として標準化されているべきである。

 今後、さらにネットに接続するデバイスが増え、アプリケーション間の通信が当然となるなかで、金融機関の提供するサービスのみがどのアプリとも通信できなければ、金融サービスは孤島のような状態になってしまう。今こそアカウントアグリゲーションサービスの違和感を払拭し、標準化されたプログラム間通信によるデータ交換の実現に向けた歩みを始めるときだろう。

飯田哲夫(Tetsuo Iida)

電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。

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