4月24日、Apple Watchが世界同日発売された。対象国には中国も含まれていて、中国の消費者にとっては、Appleが中国市場を大事にしているというアピールにもなった。高級品の爆買や、iPhoneのゴールドモデルのヒットで知られる中国だが、Apple Watch Editionについては売れているというニュースは目にしない。
中国で注目されたのは、香港や中国外から転売されたやや安価なApple Watchではなく、「山寨機」なるノンブランドのニセモノだ。本家の発売日前からニセモノのApple Watchが市場で売られていた。本家の価格は2488元(約5万円)からだが、ニセモノは安いもので300元(約6000円)から深センのリアルマーケットや淘宝網などで売られている。そして売れ行きは悪くないと複数のメディアが報道している。
中国では新型iPhoneが発表されるとニセモノが登場すると思われがちだが、最近はすっかりその流れも静かなものとなっていた。iPhoneのニセモノは1~2機種程度は出るものの、ろくに市場に出回ることなくフェードアウトする。だがApple Watchは違う。確認できないほど多種なApple Watchが出回り、本物に比べ手質感が安っぽいもの、見た目も結構違うもの、逆によく頑張って似せたものや、SIMカードが入って通話ができるものなど、それぞれに個性がある。
淘宝網で売られるAppleWatchもどき。値段は399元
Apple製品ではないが、過去にKindleが出たときにも、それに似た電子ブックリーダーが出てきた。Apple Watchのニセモノラッシュは以前の新型iPhoneやKindleがリリースされたころを思い出させてくれる。
中国でiPhoneのニセモノが多数出ていた頃は、「iPhoneにしか実現できない機能があって、だからこそiPhoneを手に入れる必要がある」というニーズが中国の消費者の間にはなかった。中国メディアがiPhoneを紹介するときも「iPhoneというものは、電話ができて、音楽が再生でき、アプリとやらが入れられて機能が追加できる」「CPUのスペックはどれくらいで、メモリ容量はどれくらいで…」という風なものばかりで、たまに分解記事があった程度だった。
そこに登場し、世界的に大ヒットしたのがゲームの「AngryBirds」だ。AngryBirdsは、中国でメンツ目的以外のニーズを掘り起こし、最初のiPhoneブームを巻き起こした。当時の(少なくとも中国で売られている)Androidスマートフォンは、画面はそれより小さく、CPUやメモリが不十分で遊べるものではなかった。だからこそ、AngryBirds以降は、iPhoneは本物でなくてはならなかった。逆にキラーアプリ無き頃はニセiPhoneのニーズがまだあった。ニセモノが入り込む隙があったのだ。
Apple Watchについても、中国メディアは、当時のiPhoneレビュー記事のように、質感やスペック、分解でしか評価していない。ニセApple Watchが氾濫するのも、各メーカーが「Apple Watchでないと困ることが見つかるまではニーズがある」ことを見越した結果だろう。
今や質感にこだわらなければ、Apple Watch似のスマートウォッチを出すのは、メーカーにとって難しいことではない。中国の携帯電話市場では、記憶する限り2012年頃から多種多様なノンブランドの小型フィーチャーフォンが売られている。音楽が聴けて写真も再生できるスマートウォッチ大の大きさのものもある。技術的ハードルが低いこの商機に多くのメーカーが参入している。
「Watch OSを搭載したApple Watchでないとできないこと」や「iPhoneと連携しないとできないこと」が購入の動機とならない限り、ニセモノは出続ける。既存の技術を組み合わせてAndroidをカスタマイズしたApple Watchが出てきてもおかしくない。ないしは、中国での電子ブックリーダーがそうであったように、対黒船で最初は多数リリースされたニセモノも、本家のフェードアウトによりニセモノも商機でないと判断し、消えていくかもしれない。
- 山谷剛史(やまやたけし)
- フリーランスライター
- 2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち 」など。