北川裕康「データアナリティクスの勘所」

Oracle DBとの戦いから学んだ「戦略の定義」

北川裕康 2015年11月27日 07時00分

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 今回は「戦略」とは何かについて考えてみましょう。日常、「その戦略どうなっているの?」とか「○○が考える戦略」とか何気なく使っている言葉ですが、よく考えてみると「たたかう」という漢字が入っておりちょっと怖い言葉です。英語のStrategyの語源はギリシャ語で「軍を導くこと」の意味だそうです。戦いのにおいがプンプンしますね。

 そもそも私が戦略について深く考えるようになったのは、日本オラクルとの戦いからです。1990~1993年にかけて、私は日本DECの製品SEとしてリレーショナルデータベース製品「VAX Rdb(現Oracle Rdb)」を担当していました。当時、同じVAX環境でオラクルに負けることが多々あり、その悔しい思いを胸に、オラクルをやっつけられるような製品を売ってやろうと、「Microsoft SQL Server」を有する日本マイクロソフトに入社したのですが、当時のマイクロソフトは超コンシューマの会社でエンタープライズ市場向けのリソースには限りがありました。


 入社当初は私自身マーケティングも戦略立案もよく分からずに、少ないリソースの一部としてがむしゃらに働くだけで、終電帰りか、それを逃すと朝まで仕事という日々が続くうちに、これでは敵に勝てないと思い始めました。敵は潤沢なリソースを持って会社規模で来るわけですから。そこで、パートナーやコミュニティなどの社外の味方を増やすことと、戦略を持つことを考えました。ステージに応じて、徹底的に力を注ぐべき場所を探る必要性に駆られたのです。

 それ以降、さまざまなビジネスシーンでの戦略立案を実践しながら、「戦略とは何か」を自分なりに定義しようとしてきました。それなりのビジネス経験を積み、その定義がようやく見えてきたように思います。さらに、現在勤務する会社は大手に比較して潤沢なリソースがあるわけでもなく、限りあるリソースをいかに活用して成長するかを考える過程で、戦略立案の勘所と具体的な手立てが整理されてきました。ここでは、そのことについて皆さんにお伝えします。

「狙うべきところ」を見つけ出す

 企業は、情報、モノ、金、データなどのリソースをもっていますが、それらには限りがあります。IoTなどによってデータの生成には限りがなくなってきた雰囲気ですが、ここでもデータサイエンティストのようなデータを使う人的リソースに制限があります。


 戦略とは、一言で言い表すと「狙うべきところを見つけ出し、狙ったところ=優先順位の高いところに適切なリソースを割り当て、企業やグループや人を導くこと」です。至極当たり前なことを言っているようですが、狙うべきところを見つけ出す、これは非常に難しい課題です。換言すると「どのような“市場機会”があり、どの製品やサービスを“誰に”売りたいか」。それができれば後はGo To Marketです。

市場機会の先読みとセグメンテーション

 市場機会(市場において自社の強みを発揮する場所)について、私自身、現状のマーケットでまったく新しい機会を探す自信はありませんが、市場で次に何が起こるかをなんとなく感じとり、そこに対して機会を見出すことはできます。最近読んだ本にあった表現ですが、新しい機会というのは“ひずみ”が兆候として見えるそうです。”ひずみ”とは、変化するところがざわついている感じでしょうか。ITの世界では、新しい技術が登場し、少人数ですが影響力のある人たちが、何かを感じて熱く話しているところだと思います。毎日ZDNetを読んで(笑)、“ひずみ”に対するアンテナを張るようにしてください。

 “誰に”の部分では、セグメンテーションを行います。セグメーションによって、“誰に”をさまざまな属性で分割・分類します。

 以前は、地域とか、年齢、売上規模など、比較的単純な属性でセグメンテーションを行っていましたが、昨今、アナリティクスの発達により、行動分析に基づくより詳細なセグメンテーションをするようになってきています。詳細なセグメンテーションごとにモデルを定義する必要があるため、定義するモデルが膨れあがりつつあります。ここを自動化するという目的で、今、機械学習が使われているのです。機械がデータから学び、セグメント(領域)ごとのモデル作成を自動化します(ここでは是非「SAS Factory Miner」をご検討ください)。


 セグメントができたら、そこでなんらかの評価を行って優先順位を決め、高い優先事項に必要なリソースを割り当てるのです。近年データが重要なリソースになっていますが、さまざまなビジネス経験を通じて、ビジネスの成功要因はやはり「人」だと実感しています。いかに人を育てる環境をつくり、人と向き合うかということがビジネスリーダーの一番大切な仕事です。人は、スキル、感情・モチベーションがまちまちで、結構やっかいなリソースであるためです。

 今振り返ってみると、Microsoft SQL Serverが普及したのは、2つのステージで戦略がうまく作れた(狙うべきところを見つけ出せた)からだと思っています。第1のステージでは、オラクルに勝つ体力を付けるため、下位のベンダーから市場シェアをいただくことを目指しました。そのための施策として、徹底した情報提供、ISVのリクルート、コミュニティの構築を行い、ボリュームを出しました。第2のステージは、エンタープライズ市場でガチ勝負をして勝つことが目標でした。ここでは、SI会社と連携し、ミッションクリティカルな分野で採用されるように仕掛けることを行っています。

「企業戦略」と「IT戦略」を定義する

 ここまでは、主に製品を売る、競合に勝つための戦略を説明しました。最後に少し視点を変えて、「企業戦略」と「IT戦略」について定義したいと思います。

 企業戦略とは、戦略の本来の意味「Strategy=軍を導くこと」で解釈すると、「企業を導くこと」になります。(1)長期的な視野に立ち、(2)企業が向かう場所や姿を描き、(3)そこへ導くため実行計画を持つこと—それが企業における戦略です。

 以前勤めていたCisco Systemsは企業戦略の実装に長けた会社でした。CEOがVSEM(Vision、Strategy、Execution:実行計画、Metrics:どうパフォーマンスを測定するか)を作成し、次にその下のレベルでCEOが書いたVSEMを詳細化し、それが末端まで落ちてきます。これによってすべての社員が同じ方向を向くことができるのです。企業の最重要リソースは人だと前述しましたが、社員がばらばらの方向を向くのはこの重要リソースの無駄遣いであり、よくないことです。


 企業戦略を描く具体的な手立てとして有効だと思う手法は、ちょっとトラディショナルかもしれませんが、バランスドスコーアカード(BSC)です。自社を分析する手法としてはSWOT(Strength、Weakness、Opportunity、Threat)もよく使われます。BSCのよいところは、SWOTの分析結果を戦略につなげることができることです。ここではBSCの詳細については書きませんが、この手法に関する書籍は多数あるので、ぜひ読んで自社の企業戦略立案に活用することをお勧めします。

 IT戦略も、企業戦略と同様、ビジネスの長期的なビジョンを持つことから始まります。(1)長期的な視野に立ち、(2)ビジネス上の競合や新しいIT技術などの外部環境を見ながら、(3)経営を推し進めるITのビジョンを描き、(4)そのビジョンへ行くために予算や人などの限りあるリソースを使い、(5)どのようなITシステムを優先的に構築していくかを計画します。一言で定義すると、IT戦略とは「ITで企業を導くこと」でしょうか。

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