ワークスアプリケーションズは12月10日、SaaS型統合基幹業務システム(ERP)「HUE(High Usability Enterprise)」をリリース、会見を開催した。HUEについて同社は“人工知能型ERP”と表現している。
代表取締役で最高経営責任者(CEO)の牧野正幸氏は、「完全に分業化している企業は違うかもしれないが、経営層の仕事でもスプレッドシートに入力し、分析といった、経営判断とは異なる業務はたくさん残っている。こうした業務が人工知能によって自動化されれば、仕事の50%は省力化されるのではないか」とERPに人工知能を組み込むことで、業務効率が大幅に改善されると説明した。
今回の正式リリース前のプレオーダー段階で、新規顧客100社、既存製品である「COMPANY」導入企業1100社のうち100社が導入意向を表明しており、「6月末までに100社に導入される見込み」だという。
会見では、特別イベントとして、Google内部の研究組織である「Google X」の初代責任者で現在はUdacity共同創業者兼CEOのSebastian Thrun氏を招き、牧野氏とのミニ対談を開催した。Thrun氏は、「人工知能を実ビジネスに取り入れることで、ビジネスは大きく変革する。これは昔、農業、製造業が機械の発明によって大きく変わった現象と同じ。日本のオフィスワーカーの生産性を大きく上げ、私たちの働き方が大きく変わる」と人工知能を業務に活用する意義をアピールした。
企業の特性を学習する
牧野氏はHUEについて、「コンピュータ操作に費やされている多くの時間を自動的に作業させるようにすることができる。人間が単純な作業から解放される」とコンピュータ操作に関わる作業を少量化するものだと説明した。
ワークスアプリケーションズ 代表取締役CEO 牧野正幸氏
「機械が人間の仕事を奪うという意見もあるが、人間でないと判断できない仕事は人間が行い、単純な作業はコンピュータが行うようになる」と人間の生産性向上に対してプラスになる部分が多いと説明した。
牧野氏は、「(知り合いの経営者にHUEを見せたところ)経費精算機能だけでも、自分の日常業務の10%から20%は省力化できるので使ってみたいという意見をもらった」というエピソードを紹介した。
実際にHUEを導入する際、既存のCOMPANYを導入しているユーザー企業が利用するための移行ツールを用意していることを紹介した。「既存の業務データを利用することで人工知能にある機械学習によって、その企業の特性を学習する。従来よりも速いスピードで移行が進むことになる」と既存データを活用することにメリットがあると説明。利用できるデータとしても、「COMPANYだけでなく、他社製アプリケーションのデータも学習できる」と他社製品を含めて、蓄積されたデータを機械学習させられると説明した。
Thrun氏との対談では、Thrun氏はGoogle X時代の体験から、「Google Xプロジェクトは、全てハイリスクだった。自動運転車の“Google Car”にしても、本当に作ることができるのか、作ることができたとしても安全なものを作ることができるのかはわからなかった。“Google Glass”についても、作ったものをみなさんが頭にのっけてくれるのか、利用して大丈夫なものができあがるのか、わからないまま開発した」と開発は楽な道のりではなかったことを明らかにした。
Udacity 共同創業者兼CEO Sebastian Thrun氏
リスクが多いことを承知しながらも、人工知能の開発に取り組んだ経緯については、「人工知能に取り組むことになったのは『人』を知ることにつながると考えたから。自分は人に魅了され、心理学や哲学、医学と幅広く勉強をした。その上で人工知能を学ぶことが人を知るために最も建設的な方法となると考えた。人を知るには、ただ人を観察してもダメで、人工知能を作っていく過程で人とは何かを最も考え、知ることになる」と検討を重ねた結果だとした。
また、「1997年にチェスでコンピュータが人間に勝利したが、2013年にはGoogleの自動運転車が登場し、私の運転手としての能力がコンピュータに負けてしまった。私は運転手として生きることを諦め、CEO、教職者としての道を見いださなければならなくなった」と冗談を交えながら紹介した。
続けてThrun氏は「ただし、これは前例がないことではない。400年前に農業に携わっていた、われわれ全員が機械化で別な職業を選択しなければならなくなったことと同じ。ただ、驚くべきはそのスピードの速さ。われわれは常に持っているスキルを進化させなければいけなくなっており、生涯学習を続けることが必要になっている。生涯、学習を続けていくことでわれわれには面白いチャンスも生まれる」と人工知能の登場が人間にとって新たなチャンスを生み出す機会になると言及した。
そして、「牧野さんはGoogleが起こした革命を職場で起こそうとしている。私の会社の仕事でも反復的な仕事も多い。人工知能では何が可能で、何が可能ではないかを見極めるためにも重要な取り組み」とワークスの新しい取り組みにエールを送った。