日本マイクロソフトは2月22日、Microsoft コーポレートバイスプレジデント(Microsoft Research担当)のPeter Lee氏や東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授 杉山将氏、産業技術総合研究所 人工知能研究センター所長 辻井潤一氏など、人工知能(AI)や機械学習分野の第一線にいる研究者を招いて、これらのテクノロジが産業界や実社会にどのような影響を与えるのかを議論するラウンドテーブルを開催した。
最初にプレゼンテーションしたMicrosoftのLee氏は、機械学習技術は、かつて“活版印刷技術”が世界中の民衆に知識へアクセスする印刷物という手段をもたらしたのと同等の「破壊的な技術」であると語った。
左から情報・システム研究機構 丸山宏氏、東京大学 杉山将氏、Microsoft Research Asia池内克史氏、Microsoft Research Peter Lee氏、NTTコミュニケーション科学基礎研究所 上田修功氏、産業技術総合研究所 辻井潤一氏、情報・システム研究機構 統計数理研究所 竹内薫氏
Microsoftの機械学習に対する取り組みは多岐にわたる。まず、Lee氏が取り上げたのは「Skype」の翻訳機能だ。「科学的に分かっているのは、使い続けることで翻訳機能が向上すること。課題は機械学習が膨大な演算能力を必要とすることだ」とLee氏。
Skypeのローンチ前に作成していたデータベースは丁寧かつ形式的な会話の音声情報だったが、サービス開始後は、ユーザー同士が異なる言語で会話を繰り返したデータを学習して、機能向上と、新しい言語への対応を進めている。「8週間に1回のペースで新しい言語にチャレンジしている」(Lee氏)そうだ。また、日本語への対応も2020年の東京オリンピックまでには完了する予定だという。
また、Windows 10の音声認識機能「Cortana」は、機械学習技術によって、ユーザーが送受信するメール上の約束を検出してリマインダーを作成する。Microsoft HoloLensによる空間認知や、手の動作を検知する機能にも機械学習技術が使われている。
機械学習の今後について、Peter氏は「数年内に大学試験に合格できるかもしれないが、一方で、常識や道徳が重要な小学生のテストに正解するのは難しい」と語った。「今の時代、データや経験を数値化することに限界がなくなった。だが、機械学習やAIにおいては第一歩を踏み出したに過ぎない。基礎研究が重要だ」(Peter氏)
「機械学習とは、データの背後に潜む知識を自動的に発見する技術」と定義する東京大学の杉山氏は、人が教師となってコンピュータに学習させる「教師付き学習」、コンピュータがウェブページやSNSなどを通じて自発的に学習する「教師なし学習」、エージェントに試行錯誤させながら学習する「強化学習」の3つの方法を研究している。
ビッグデータを扱うには一定規模のデバイスを必要とし、大学の研究現場では用意できない現状がある。そのため、杉山氏の研究室では、学習方法の第4軸として少ない情報から学び、低コストで高精度な「Our Interrests」の確立を目指しているという。