NTTコミュニケーション 科学基礎研究所の上田氏は、最近話題になっている「Ambient AI(人々から得られる情報を元に意図や感情を分析し、ビッグデータに基づいた推論や対話を目指す技法)」を挙げ、「まだ現実味を帯びていないが、今後のIoTとビッグデータの時代に重要になってくる」との見解を示した。
その例として、同社とドワンゴが協力したイベントのシミュレーション分析を示し、(1)案内人がいない会場、(2)案内人がいる会場、(3)積極的に案内を行った会場――の違いを披露。人の誘導を可視化すると違いが明確になり、現場で必要な人員や行動が明らかになることを示した。
Ambient AIの実現に向けて、上田氏は「いつ」「どこで」「何が」をリアルタイムに予測して役立てる「時空間多次元データ集合分析」の研究を進めていくとする。時空間多次元集合データ分析については、現在中国で実験を行っており、「将来的には高速道路の渋滞解消にも役立てたい」(上田氏)とのことだ。
上田氏による「機械学習予測に基づくプロアクティブな誘導システム」のシミュレーション例
「1兆個におよぶIoTデバイスの管理方法に興味がある」と語る情報・システム研究機構 統計数理研究所 教授 丸山宏氏は、機械学習にその可能性を見出しているという。トヨタ自動車が1月の「CES 2016」で披露した“複数台の自動車にセンサをつけて互いが衝突しないように動くデモ”を引き合いに、過去のプログラミングスタイルを否定した。「以前は開発前に仕様を決めていたが、機械学習が前提になれば試しながら仕様を再構築するという演繹法的開発が可能になる」(丸山氏)
産業技術総合研究所の辻井氏は、“人に寄り添ってしなやかに助けてくれるAI”の開発に取り組んでいることを紹介した。「テクノロジーがコモディティ化しつつあり、パーツを組み合わせて新しいシステムを構成できる現在、技術の進展が加速的に進んでいる」と現状を分析しつつ、「それらのソフトやデータに“人”を統合することで、より大きな問題を解決できる時代になった」と述べた。
先ごろ、Google DeepMindの「AlphaGo」が欧州の囲碁チャンピオンに全勝したが、「これは深層学習を使ったもの。膨大な棋譜をデータベース化し、シミュレーションを繰り返すことで局面判断などのトレーニングデータを蓄積した」(辻井氏)。だが、一方で「人間や実社会はゲームのルールと異なるため、生命現象をすべてシミュレーションすることはできない。だからコンピュータ上のデータと人が持つ知識を統合して生かすアプローチが大事」と述べた。
AIとナチュラルインテリジェンスが協力することで新たなチャレンジが可能になると語る辻井氏