すでにGoogleやFacebookは銀行業務免許を取得しており、「Facebookの“中”には売り手(お店)と買い手(ユーザー)が存在し、1つの経済圏が構築されている。この中で決済ができれば、ビジネスは完結する。将来的にはクレジット(カード)決済すら必要なくなる可能性もある」(石井氏)
また、Amazonはサイト内でやり取りされるデータをすべて掌握している。Amazonではそれらのデータを分析し、有望な店舗(企業)に対して融資ビジネスを開始した。こうした状況を踏まえ石井氏は、FinTech系企業の台頭で今後変化する領域として「決済分野」「預金と運用」「デバイスと取引のプラットフォーム」「ビッグデータとBI分析」を挙げている。
こうしたFinTech系企業に、金融市場は侵食されるのか。石井氏は、「FinTech系企業は金融機関の規制とコア部分の外側で利益を上げているが、金融の核心までは入っていない」と指摘する。
金融の核心とは、ブランド力と既存顧客ベースで行われている仲介、資金決済、信用創造といった取引だ。また、銀行法などで保護されている部分についても「FinTech系企業は入っていない」(石井氏)という。
ただし今後は、「新たなチャネルの増加」「革新的な商品サービスとの融合」「インターネットをプラットフォームとした経済の取り込み」「デジタルネイティブ世代など新たな顧客層の流入」といったトレンドが顕著になる。「そうした際には、金融市場全体が拡大していく可能性がある。FinTechと金融機関は融合、補完しあう関係になるだろう」と述べた。
日本テラデータ 金融事業本部 プリンシパル・コンサルタント 渡辺高氏
コンピューティングリソースの低価格化が追い風に
金融事業本部プリンシパル・コンサルタントを務める渡辺高氏は、既存の金融機関の強みとして「これまでの顧客データと、その分析から得られた知見」を挙げる。一方、新規参入であるFinTech系企業の“追い風的要因”としては、コンピューティングリソースの低価格化により、アイデア次第ですぐに参入できることを挙げる。
「(金融市場への)参入障壁が低下し競争は激化した。既存の金融機関にとっては“危機”でもあるが、ビッグデータの活用や分析で、金融機関の強みを拡大できる“機会”でもある」(渡辺氏)
渡辺氏は、既存の金融機関がビッグデータを活用、分析している事例として、保険の不正請求を検知する「ネットワーキング分析」を紹介した。これは、請求同士のつながりを「1つのネットワークの塊」として分析し、不正の可能性を割り出すものだ。この分析アイデアは以前から存在したが、1000万円の不正を見つけ出すために1億円の投資が必要で、割に合わなかったという。
渡辺氏は、「計算機能力の向上やデータ収集や保存能力の向上、さらに分析(機械)学習の発展、ノウハウ(分析の知見)の蓄積などで、これまでアイデアベースだったサービスも実現できるようになった。今後はこうしたデータ分析を活用したサービスがさらに充実するだろう」との見解を示した。