理工系学生の上位層は極めて優秀
一方、ハノイやホーチミンなどの各都市で拠点となる国立大学の理工系学部には、高校入学前からの選抜に勝ち残ってきた優秀な若者が多く在籍しています。ベトナムでは日本の「スーパーサイエンスハイスクール」をはじめとする特定の高校への重点化施策のように、各省(日本の都道府県に相当)に一つ程度ずつ成績優秀者が進学する特別の高校があり、数学科、英語科といった各専攻で分野に特化したエリート教育を受けるケースもあります。
優秀な若者を早い段階から選抜し、スペシャリストとして育てていくため、これらの高校を卒業して国内のトップレベルの大学に進学してきたベトナム人学生の優秀さは容易に想像できます。入試の仕組みや願書の提出方式が日本と異なるため競争率は一概に比較できませんが、一学年の規模が100~200人程度のため狭き門であることは間違いありません。
大学における研究室のレベルも決して低くはなく、研究室訪問を行うと「このプロジェクトは、A国のある企業との共同研究でこの後の工程はA国での製造に回されます」「このプロジェクトは、Bという海外企業とのベトナムにおける共同研究で、本年の後半には実運用が開始されます」といった話がいくつもあります。
実際に、日本以外の各国からの寄付講座や研究室への投資は少なくなく、海外の政府機関による政策的な投資もあるようです。さらには、博士号取得者のプロジェクトへの配属数といった面でも日本の大学より良い場合もあり、訪問した日本の教員が「本学よりも良い環境かもしれません」と話していました。
ただ、ベトナム政府からは、「すぐに実用化できるものを」という要請が強いとも聞いています。ベトナムが国家戦略として工業化戦略を定め、国家として工業力をつけようとしている以上当然なのかもしれません。日本以上に産学連携が進んでいるとも言えますが、一方で、「大学の自治」「研究者の自由な発想による基礎研究の充実」という点では、日本とは状況が異なっていると言えるでしょう。

- 古川 浩規
- インフォクラスター
- 内閣府及び文部科学省で科学技術行政等に従事したのち、平成20年に株式会社インフォクラスター、平成22年にJapan Computer Software Co. Ltd.(ベトナム・ダナン市)を設立。情報セキュリティコンサルテーション、業務系システム構築、オフショア開発を手掛けるほか、行政書士として日系企業のベトナム進出などの支援業務も行っている。資格等:国立大学法人電気通信大学 客員准教授(研究推進機構 研究推進センター 国際連携推進室)、日本セキュリティ・マネジメント学会正会員、情報セキュリティアドミニストレータ、財団法人 日本・ベトナム文化交流協会 理事など。2016年4月に行政書士事務所を開設。