10月14日に、ホーチミン市において「Japan ICT Day 2015」が開催されました。同イベントは、Vietnam Software and IT Services Association (VINASA)、Vietnam – Japan IT Cooperation Club(VJC)およびVietnam Trade Promotion Agency(Vietrade)が主催し、日本の日本貿易振興会(JETRO)、情報サービス産業協会(JISA)、組込みシステム技術協会(JASA)、日本ソフトウエア産業協会(NSA)が後援しました。
そこで今回は、9回目の開催となるこのイベントに参加してことをレポートするとともに、直近に訪問したカンボジアにおけるITへの期待にも触れることで、ベトナムの情報通信産業が徐々に変化しつつある現状を報告します。
日本は今後も重要なパートナー
ベトナムのIT産業、特にソフトウエア分野において日本が非常に重要なパートナーであることは、この連載でも繰り返し述べています。この点については今回のイベントでも繰り返し強調されており、全体セッションにおいてベトナム側からは、「引き続き日本からの投資と技術を呼び込みたい」「ベトナムでは医療分野におけるIT化や、IoTについてもまだまだ未開拓である」といった発言が聞かれました。
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また、ベトナム側からの話として注目すべき点として、ハードウエアに対する需要がまだまだ根強いことが挙げられます。ベトナム情報通信白書というマクロの統計データを見ると、ハードウエアの販売が好調であることから、ベトナムのIT産業はハードウエアの販売実績によって成長していることがよくわかります。
日本からベトナムを見た場合には、「内需を見込んだ販売先としての拠点」という見方がなされることも多くなってきていますが、このようなハードウエアの販売状況を中心に見ていくと、ベトナム側も同じような感触を得ているように思います。
これまでとは異なる見方も
VINASA会長でありベトナム最大のIT企業であるFPT社の社長でもあるビン氏による挨拶。ビン社長は、ベトナムのソフトウエア産業の立役者でもあり、現在の日本との事業モデルはビン社長が確立したといっても過言ではない。会場には多くの日本人・ベトナム人が参加し、地元テレビ局も取材に来る盛況ぶりだった
Japan ICT Dayの最終日には、ベトナムの優良IT企業40社の表彰セレモニーがありました。表彰された企業に個別に話を伺うと、日本とのビジネスが成功して数年のうちに大ブレークしたというサクセスストーリーが中心です。そのため、ベトナムでIT産業に従事する方にとっては、対日ビジネスはこれからも外すことができないでしょう。
一方で、そのような状況を冷静に分析し、「ベトナムの現地事情も変わってきている」という発言をするパネリストもいました。これらの話をまとめると次のようになります。
- マクロのデータを分析すると、IT産業に関するベトナムへの進出数に比べて、ベトナムへの発注案件数は伸びていない。
- ベトナムでの人件費の急騰は悩ましい問題。ベトナムのIT産業全体として、高付加価値化といった競争力を伸ばすことが課題。
- ベトナムのIT業界にとっては、相変わらず、高額の給与を提示することによる人材の引き抜き合いが行われており、業界としてのモラルの醸成が待ったなしの状況。
(2)と(3)は、これまでも指摘されてきたベトナムのIT業界が抱える長年の課題でもあります。また、消費者物価指数の前年同月比の高騰が落ち着き1桁前半であるにもかかわらず、ベトナム政府の法廷最低賃金の伸びは2桁となり、これに引きずられる形で、企業での従業員からの人件費上昇圧力も非常に強まっている状況です。
加えて、高額給与による人材の引き抜き合いが活発化すると、ベトナムでのコストメリットがますますなくなっていきます。
これまでは、まだなんとか価格競争力が残っていたために、「放っておいても仕事が来る」という状況が続いてきました。しかし、日本側もベトナムのコスト上昇を何となく感じているのかもしれません。加えて、現在の為替レートは以前ほど円高ではないため、たとえベトナムの現地のコストが上昇していなくとも、日本での見かけ上のコストが上昇していることも影響しているのでしょう。その意味で、日本からの仕事が少なくなってきている可能性もあります。