情報産業労働組合連合会(情報労連)は4月21日、「2024 ITエンジニアの労働実態調査結果」を発表した。賃金や一時金、労働時間など、労働条件に関わる項目に加え、情報サービス産業における取引関係や価格転嫁をめぐる状況についても尋ねた。
ITエンジニアの労働実態調査は、情報サービスに関わる人のさまざまな実態を把握し、この分野の魅力を高めるとともに、ITエンジニアの社会的地位と働きがいを向上させる目的で、1993年に開始。2024年で31回目を迎えた。
調査協力企業数は186社となっており、2023年の242社に比べ減少。情報産業労働組合連合会 政策局長の青木哲彦氏は「2020年に新型コロナウイルス感染症の影響を受け、一時調査を中断して以降、参加企業が少なくなっているが、2025年の調査においては、多くの企業の方にご協力いただけるよう努力していきたい」とした。

調査協力企業数の推移
所定内賃金と年間一時金の年間賃金を年齢別に分析した「年齢ポイント別年間賃金」では、25歳の平均額が約389万円となり、以降は年齢とともに上昇。45歳以降では600万円台という状況になっている。企業規模別では、従業員数が多い企業ほど、賃金が高い傾向にあり、この傾向は特に1000人以上の企業で顕著になる。

年齢ポイント別年間賃金
「初任給・賃金の引き上げ状況」では、約7割の企業が初任給の引き上げを実施しており、その平均金額は約1万3000円強。実施状況には企業規模間で格差があり、100人未満の企業では実施率、額とともに1000人以上の企業の半分程度となった。賃上げについても、全体で8割の企業が実施しているが、企業規模間で格差が見られ、小規模企業ほど困難な状況になっているという。
青木氏は「今回の調査と直接関係はないが」と前置きした上で、賃金におけるグローバル水準との比較を提示。それによると、日本のITエンジニアにおける平均賃金は約447万円になっており、米国の同1421万円、英国の約776万円と比較しても低い水準にあるとのこと。

グローバル水準との比較
「歴史的な円安も考慮する必要はあるが、傾向としては低位にある。日本のソフトウェアエンジニアの賃金水準は全労働者の平均賃金に比較しても指数が0.8と低く、情報労連としては、人材育成を通じてITエンジニアの質を向上し、労働の価値を高める取り組みを進めていく必要があると考えている」(青木氏)とした。
「年間総労働時間の推移」では、2024年の総労働時間が1937時間(2023年は1931時間)となりほぼ横ばい。時間外労働時間は、前年に比べ微増となったが、長期的に見ると減少傾向にある。

年間総労働時間の推移
2024年の特別調査としては、物価高やエネルギーコストの上昇の長期化などを受け、「受託費用や価格等の改定の必要性」について実施した。人件費、外注費、エネルギーコストのいずれにおいても、2023年と比較して価格改定の必要が高まっており、中でも人件費については8割の企業が「価格改定が必要」と回答した。
価格改定は、大企業ほど申し入れをしている割合が高いが、小規模の企業では申し入れができず、価格転嫁が困難な状況にあるとのこと。さらに、顧客から価格改定の申し出があった割合については、半数以上の顧客から申し出があった大企業に対し、100人未満の企業では約半数の顧客から申し出がなかったと回答した。
受託費用、価格などの改定結果についての評価は、「対応できた」と回答した企業は、人件費の上昇、外注費の上昇で7~8割台を占めるが、その内訳としては「必要最低限の対応はできた」がほとんどで、「十分に対応できた」は1割にも満たない結果になったとのこと。さらに、企業規模別にみると、「必要最低限の対応もできなかった」と回答した企業は、1000人以上の企業では皆無である一方、企業規模が小さい企業ではいずれの項目も約1~2割存在したという。

価格等の改定の申し入れ

顧客からの受託費用や価格等の改定の申し出
「価格転嫁の実施状況と賃上げ等の関係」を見ると、人件費の上昇に対応できた企業で「賃上げを実施した」は81.9%となったが、最低限の対応もできなかった企業で「実施した」は68.0%となった。
青木氏は「生産コストが上昇しているのに価格転嫁を自粛せざるを得ず、自社の中で対応しているような状況や、価格転嫁がしづらい小規模事業者ほど、発注者側からの申し入れが少ない状況もあり、これは経営を圧迫しかねない。産業の健全な発展に向けては、協議の場をしっかりと設け、対話を通じて公正な取引環境を根付かせていくことが人への投資、さらには業界全体の競争力の強化につながる」とし、環境の整備を促していく取り組みをしていきたいとした。