スモールデータから知見を見出す「スパースモデリング」

人間と機械の協業の未来--専門家の知識を機械学習に統合する - (page 3)

大関真之

2016-06-01 07:00

叡知統合型機械学習

 医療分野は究極の専門領域の一つだ。医師は医療分野の専門家としてこれまでの医術の蓄積・豊富な実績、日々の研究の積み重ねにより、人間の健康や疾病への対応そして現場での経験を通して、さまざまな専門技術を習得している。

 ここにひとつの研究事例がある。第1回で登場した脳の内部を探る「磁気共鳴画像法」である。撮像の方法によりさまざまな見せ方ができるのだが、それは同時に内部の組織の特徴を調べられるということだ。医師はそれを見て、実にうまい具合に脳の組織をグループ分けする。素人にはできないことだ。

 しかし丁寧にこれを実施するには膨大な時間がかかる。診断や研究などの中心とする業務に集中するためには、その自動化技術が重要となる。今のところこの自動化技術は、時間を掛けてていねいに実施した結果を基に、個人の脳の形に合わせるように変形するものが大半である(図1)。

図1:脳のMRI画像からの解剖学的見地に立ったラベリング
図1:脳のMRI画像からの解剖学的見地に立ったラベリング
(京都大学・大学院情報学研究科システム科学専攻山本詩子氏提供)

 ここに専門家の叡知(えいち)を埋め込んで正則化し、機械学習で習得した内部の組織の特徴と照らし合わせることで、自動的に脳の組織をグループ分けができるようになるのではないか、と京都大学を始めとする研究グループが推進しているところだ。この技術を基本として研究開発が進めば、脳の腫瘍や血管の詰まり、組織の異常などの検出に役立つと期待される。

 同様のアプローチは医療分野にとどまらない。レントゲン写真やCT画像を見て、組織の異変に気付くように、今やどんなものも計測の対象であり、顕微鏡技術の発展により、材料の表面やさまざまな物質の微細加工の様子、細胞のひとつひとつの振る舞いが見える。その画像を見て、われわれ素人は異常を発見することはわからないし、複雑な模様が見えても、それらがどのような関係性にあるのか、グループにわかれるのか、知る由もない。

 しかし専門家はそれを見抜くのだ。それではどこに注目しているのか、どの程度周囲との関係を気にしているのか質問をしても彼らはうまく答えられないが、決め手となる直感がある。その感覚を機械学習で習得させてみてはどうだろうか。京都大学と東北大学による研究チームが、新規材料の開発やその性質を評価する場面で、機械学習と専門家の知識、すなわち機械と人間の叡知の統合を進めている。

 素人の筆者であっても、専門家の知識を吸収したシステムを利用して材料評価を実践することができた。例えば一目顕微鏡画像を見て、どこが炭素原子で、どこが窒素原子で、それらがどんな構造にあるなどを精度よく識別することが、素人の筆者でも可能となる。

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