繰り返しになりますが、量子コンピュータに必須な量子ゲートを実現するには、演算に潜む誤りの克服が重要で、誤り訂正技術の実現が必須です。その精度が向上してきたので、ゲート方式に基づく量子ビットを作れるようになってきたということです。
次はそれを積載してどんどん大きくしていく。それで解きたい問題に応じたアルゴリズムを実装するわけです。しかし、いちいち問題に応じて、アルゴリズムを用意する、そして実装するのは大変ですから、現段階では比較的容易に実行可能な量子アニーリングが注目されているというわけです。
量子アニーリングは、基本姿勢としては自然に任せて勝手に動くので、放っておけばいい。誤差の蓄積もないし、動作の数も少ないから楽、しかも汎用的です。量子アニーリングは中継ぎ投手という位置付けですね。最近の研究のスピードを鑑みると、今後5年くらいで量子アニーリングはある意味で成熟期を迎えるのではないでしょうか。
そして10年以内には、いわゆる量子ゲート方式のコンピュータも普通にできていて、その両者を組み合わせたり、あるいは量子ゲート方式で高速に素因数分解を実行する時代がやってくるかもしれません。そうなると素因数分解を利用した暗号は解読されてしまい、従来の暗号技術を捨てる時期が来る可能性もあります。
でも量子アニーリングの盛り上がりは、そういう「不安な時代」を招く研究を目指すよりも、実社会に多く利用されている最適化問題を解くためにある量子アニーリングの研究の方がより積極的になれるという側面もあるかもしれません。
田中氏 量子アニーリングの仕組みは、端的にいえば簡単なアルゴリズムです。手順は問題を用意して、その場に置くだけという。自然現象に計算を任せてしまう、ただそれだけなので非常に簡単です。
大関氏 ハードウェア的にはそういう側面があるのですが、一方では量子アニーリングを模したというか、量子ゆらぎを利用した、計算アルゴリズムを現在のコンピュータ上でシミュレーションできる部分もあります。そのシミュレーションで、量子アニーリングが良いか悪いのかという議論をしていた時代が少し前までありました。
今はそれを積極的に利用して、デジタルコンピュータ上でシミュレーションした量子アニーリングによりさまざまなサービスや最適化問題を高速に解いてしまうという方針も登場していますね。

京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻助教 大関真之氏(右)と、早稲田大学高等研究所助教である田中宗氏(左)