大関氏 現在、山形大学の安田宗樹さんと一緒に実社会に利用される場面が増えてきた機械学習の問題に量子アニーリングのさまざまな側面を利用するという取り組みを始めています。彼はディープラーニング(深層学習)の理論的側面を研究しているのですが、量子力学の専門家ではない。
6月に開催されたGoogleなどが中心の「Adiabatic Quantum Computing」で登壇する大関氏
私たちはどちらかというと量子力学の専門家なので、両方向からの検討により、量子力学を使った機械学習の新しいアルゴリズムをできるようにしようというわれわれ独自のアプローチをとります。
それでさらに洗練されたアルゴリズムが構築されて、今みんなが使っている機械学習のアルゴリズムと置き換わってしまえば、それこそ米国を追い抜くことも夢ではありません。
量子アニーリングそのものの可能性についての研究も日本は負けていません。量子アニーリングといえば、「横磁場」という方法で量子揺らぎの導入をしていましたが、別のやり方でも良い。最近では日本を中心に、その他の方策を模索する動きがあります。
それは「量子揺らぎの多様化」です。新しいタイプの量子アニーリングを考えているというわけです。今までこの流れが敬遠されてきたのは、コンピュータ上でシミュレーションできなかったから、なんですね。何が起こるか先にある程度知っておかないと心配ですから。
量子揺らぎの多様化により、これまで考えられてきた量子アニーリングの性能の限界を大きく超える可能性がありそうだ、ということがわかってきました。それじゃあ実際に新しい量子アニーリングを実行しようという動きも始まっていて、米国の情報先端研究プロジェクト活動(IARPA)が主導する国家プロジェクトで、その実現を目指しています。
D-Waveも2017年度の新モデルでは、その新しい量子アニーリングを実装する予定と聞きました。既存のコンピュータではシミュレーションできない世界、本当の量子力学の力を借りたコンピュータの登場です。
こうやって日本がいいアイデアを出すと、海外のハードウェアそのものやハードウェアを作る力を持ったところがこぞってかっさらっていく(苦笑)。予算の規模が違いすぎるのです。
この6月に開催されたGoogleなどが中心の「Adiabatic Quantum Computing」という唯一の国際会議でも量子揺らぎの多様化やこの考えを利用したハードウェアに関係した講演がたくさんありました。ハードウェアの進展は着々と進んでいるようです。
そんな状況の中、僕も負けていられないので、コンピュータ上で本当にシミュレーションができないのか、と研究を重ねて、従来考えられてきたコンピュータ上での限界を大きく超えてシミュレーションできる方法を開発することに成功しました。
この方法を利用すれば、米国が新しく作る量子アニーリングマシンも新モデルのD-Waveマシンが行う実験を通常のコンピュータシミュレーションでも、(量子力学の世界を通常のコンピュータで完全に再現することはできないため)「ある程度」検証可能ですから、彼らの開発を後押しできます。
後押しするだけじゃ面白くないので、日本独自の展開に向けて動いているところです。アイデアだけなら本当に日本は負けていません。むしろ先導しているくらいです。
<第3回に続く>