私は日本の農業の将来像を問われた時に、外食産業みたいになるのではないか、と答えることが多い。これは6次産業化を指しているのではない。その心は、例えば牛丼チェーンのように「安くてうまい」ものを大量に供給する農業分野もあれば、3つ星レストランのように少量で高価なものを生産する人も出てきて、それぞれが役割を果たして産業の多様性を形成するようになる、ということである。
従来の日本は国民に安価で安全な食を提供しようと、駅前の定食屋に援助資金を与え、定食屋がたくさん増えれば日本の外食産業は安定する、という考えに似ていたのではないだろうか。それ自体悪くはないが、牛丼店などの業態が市場のニーズに合わせて成長するような市場形成を阻害していた面もあるかもしれない。
駅前には高齢者が頑張る個人経営のおいしい定食屋だらけになったのだ。しかし、問題はその定食屋には後継者がいないこと。その味を継ぐ者もいない。かといって、その店の名物料理のレシピが書き残されたわけでもない。
一方、農業に国の支援が必要かと言えばイエスである。世界中のどの国も大抵その国の農業を保護している。リンゴもレタスもお米もどんなに頑張ってもこれ以上早く成長できないという限界があり、産業として農業は植物の成長速度という律速項目が存在する。
物理的な制約がある限り、ITで人気SNSが爆発的に人気を博してすぐ上場、みたいなわけには行かないのだ。さらに世界が国別で区切られている限り、食料戦略は国ごとに存在する。そういう意味ではよい意味である程度保護すべき産業である。ブルネイのような資源を背景にした裕福な国であってもフードセキュリティという考え方が存在する。
過去鳥インフルエンザが猛威を振るった時に、いくらお金を積んでも隣国から食料が買えずに苦労したブルネイは、国民を飢えさせるリスクを回避するためにあえて三重県と同じくらいの国土に農業をインプリメントしている。(第2回に続く)

- 山口典男
- PSソリューションズ
- 2005年よりVodafone(現ソフトバンク株式会社)でホールセール事業責任者。同年、農業センサネットワーク「e-kakashi」を発案、事業、研究開発を行い、総務省ユビキタス特区委託事業(2009-2010年度)に選定。2008年に博士号(情報システム科学)取得。ソフトバンクグループ事業提案「第一回SBイノベンチャー」で一位通過(提案数約1200件)を果たす。