地方金融機関で拡大するFinTech--IT支出額は3年で3倍に - (page 3)

飯田樹

2017-02-03 07:00

 国内金融機関における「FinTech」の現状としては、大手金融機関のみならず、地方金融機関でも取り組みを開始している。分野もPFM(家計・資産管理)や会計に留まらず、トランザクションレンディング、決済、暗号通貨まで広がりつつあるという。

 2016年以降の新しい動きとしては、福岡銀行や山陰合同銀行が地方創生に積極的な取り組みをしていることが挙げられる。福岡銀行が独自に開発した個人向けモバイルでの金融サービスプラットフォーム「iBank」は、情報提供、家計簿管理、口座の管理、送金までワンストップで行えるものだ。山陰合同銀行は、ブロックチェーンインフラ基盤を提供するOrbと連携し、ブロックチェーンを使った決済システムの行内検証した。

 一方で、ユーザー企業の経理業務担当者において、FinTechサービスの活用を検討しているのは15%未満であるという調査結果も出ている。コスト削減や業務効率化への期待は高い値を示したが、セキュリティ面やコスト面を懸念する回答が多く見られたという。「中堅中小企業では期待も懸念も抱いていない率が高く、反応が薄いという状況。それらの企業をターゲットとする会計のベンダーは、どうやって検討してもらうかが課題になるだろう」(市村氏)とのこと。

 また、同社が定義する8種類のFinTechサービスを展開するために金融機関が投資するであろう金額の予測データも発表された。2017年では約110億円規模だが、2020年には約340億円規模になると予測している。2015〜2020年のCAGRは68.7%で、IT支出規模のCAGRの1.1%という予測に比べて圧倒的に高い成長率だった。

 2017年で一番成長が予測されるのはテレマティクス保険(運転行動連動型の保険)、続いて個人資産管理の分野だが、2020年までのCAGRで見ると、ブロックチェーンとトランザクションレンディング(取引履歴に応じた融資サービス)が大きく伸びると予測されている。しかし、それでも2020年までの間は検証段階にとどまっているものが多いと考えられるとのことだ。


FinTech関連IT支出予測額

 そのため、FinTechスタートアップ企業が国内金融機関のビジネスへの脅威となる可能性は少ないと見ている。ただし、リテール向け決済、資産運用コンサルティング分野は既存の金融機関のサービスが比較的手薄なため、モバイル決済などのサービスやロボアドバイザーの存在感が高まり、競争が激化する可能性もあるとのこと。その流れを見越して連携ができれば、相互に利する形で拡大するだろうとした。

 また、スタートアップ企業が持っているデータを分析して活用することで、さらに革新的なサービスが出てくると予想されるが、法制度が整備されていない現状が課題とのこと。ブロックチェーンは2016年から検証が続いているが、金融機関の業務には使えないかもしれないという反応が出始めているといい、製造業などが先に導入するのではないかという意見もあるそうだ。しかし、地域通貨や海外拠点、シンジケートローン(複数の金融機関による協調融資)などの分野でブロックチェーンの活用が見込まれるという。

 市村氏は全体のまとめとして「スタートアップ企業との連携は進んでいるが、法整備やセキュリティ面などでブレーキを踏んでいる話も多いため、ITベンダーが橋渡しをすることが必要ではないか。ブロックチェーンは1社では困難なため、エコシステムを構築することが求められる。そして、FinTechが広まるのは地域金融機関で、地方創生がキーワードになるのではないか」と締めくくった。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ZDNET Japan クイックポール

マイナンバーカードの利用状況を教えてください

NEWSLETTERS

エンタープライズ・コンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]