スマートフォンの生体認証と近距離無線で安全なIoTサービス--富士通研究所

大河原克行

2017-02-16 07:00

 富士通研究所は、スマートフォンの生体認証機能と近距離無線機能を活用することで、より安全に、IoT機器を通じたクラウドサービスを利用できる技術を開発した。今後、実用化に向けた開発を進め、2017年度中の製品化を目指す。

 FIDO(Fast Identity Online)Allianceで定められたオンライン認証プロトコルを採用。生体情報をスマートフォンの外に出さずに、生体認証を利用したクラウドサービスが実現できるため、利用者のプライバシー保護の観点からも安全であるほか、クラウドサービス事業者にとっても、個人の生体情報を管理するリスクやコストがなくなるといったメリットがある。

 「既存のIDとパスワードを利用した方式では、サービスごとに認証し、さらにサービスごとに認証情報を保持する必要があり、安全面や管理コストの上昇という課題があった。また、ID情報が組み込まれたカードを紛失した場合、第三者に不正に利用されてしまうというリスクもあった」という。

富士通研究所 IoTシステム研究所IoTプラットフォームプロジェクト・二村和明氏
富士通研究所 IoTシステム研究所IoTプラットフォームプロジェクト・二村和明氏

 FIDOプロトコルを利用することで、スマホの中に生体情報を閉じこめることができるようになり、IoT機器などに生体情報を搭載することなく、生体認証の利便性を享受できる。サービス事業者にとっては、サービスと認証の分離が可能になり、サービス業務に特化できる」と富士通研究所 IoTシステム研究所IoTプラットフォームプロジェクト・二村和明氏は話している。

 さらに、富士通研究所では、クラウドサービス、IoT機器、スマートフォンの間で、セキュアな通信経路を一時的に確立することで、本人が利用する機器の前にいることを同時に検証する技術も開発。この情報を組み合わせることで、本人確認とともに、機器の前にいることを証明し、安全にサービスを提供できるようになるという。

 シェアドカーや民泊、セキュリティルームへの入室といった利用においては、この技術を活用することで、本人が鍵の前に立っていることを証明できるため、開錠するサービスをより安全に提供できる。

 「この技術によって、駅などに設置された宅配ボックスを、生体認証だけで開錠するといった使い方ができる。本人を認証するだけでなく、本人が宅配ボックスの前にいるということも証明できるため、安全に荷物の受け渡しができる」(二村氏)

スマホの虹彩認証を使って、後ろにあるロッカーの鍵を開けるデモストレーション
スマホの虹彩認証を使って、後ろにあるロッカーの鍵を開けるデモストレーション
鍵が送られてきて開錠できる
鍵が送られてきて開錠できる

 また、シェアドカーでは、利用者を特定することで、アクセルやブレーキなどの操作から運転状況を把握し、運転方法によって保険料を変えるといったサービス提供につなげることもできるとしている。

 同技術は、NFCなどを利用して、スマートフォンと機器を物理的に近接させることで、それぞれがサービスと共有している秘密情報を交換。BLE(Bluetooth Low Energy)や無線LANなどを利用して、スマートフォンと機器の間に一時的な通信路を生成。

 本人認証結果と本人が機器の前にいる証明書を、FIDOプロトコルを通じて機器経由でサービス側に転送。それをもとに各種サービスを受けることができる。利用者は一度の操作だけで、本人認証と機器の前にいることが証明されるという。

 利用者にとっては、普段利用しているスマホを使うことで、さまざまなサービスを一元的に認証できるほか、IDやパスワードが不要であり、利便性が向上するというメリットがある。そのほか、サービス事業者は個人認証情報の管理が不要であったり、IoT機器に利用権を付与したサービスを提供したりといったことができる。

 二村氏は「スマホの生体認証技術を、オンライン上のサービスを利用する際だけでなく、IoT機器に結びつけたリアルワールドにおけるさまざまなサービスでも利用できるようになる」と指摘。

 富士通研究所では、これまでにも、コンテキストスイッチ技術の開発に力を注いできた経緯がある。ビーコンなどを利用することで、スマホやICカードを持った人が、特定の場所に来ると、本人であることを認証したり、必要な情報などをプッシュ配信したりといったことが可能な技術だ。

 実証実験を行っているJリーグ「川崎フロンターレ」のFrontaleスタジアムサービスでは、スマホに専用アプリを入れたファンがスタジアムに入ると、ビーコンやフリーWiFiを利用して、チームや選手に関する情報や、ファンサービスの情報などを提供。試合が終わって、スタジアムから出ると自動的にサービス提供が終了するという仕組みだ。

 また、在宅医療業務の現場においても、ビーコンを活用して、医師が患者の自宅などを訪問した場合に、その場でカルテ情報などを入手することができるという技術を開発。移動中に患者の個人情報が流出しないようなリスク対策が可能になるという。

富士通研究所 IoTシステム研究所・森田俊彦所長
富士通研究所 IoTシステム研究所・森田俊彦所長

 富士通研究所 IoTシステム研究所・森田俊彦所長は、「今回の技術は、こうした技術開発を経て開発したものである。利便性が高く、安心、安全に、利用者を認証し、機器を介したサービスを提供できる環境が整うことになる」とし、「2020年には数100億のモノがつながるといわれているが、こうした世界において、富士通研究所は、人を中心としたサービスを提供することができる技術の開発に力を注いでいる」と語る。

 富士通では2016年12月に、FIDOを活用し、強固なセキュリテ環境の実現をトータルで支援する「オンライン生体認証サービス」の提供を開始すると発表しており、今回の技術は、同サービスの機能の1つとして提供されることになりそうだ。

 「この技術の応用範囲は広いと考えており、さまざまな業種の企業と、技術活用の可能性について議論をしたい。パートナーとの連携が重要になる技術だと考えている」(富士通研究所 IoTシステム研究所の森田所長)とした。

 生体認証を活用したサービスは、金融機関をはじめとする大手企業での採用が先行しているが、「オンライン生体認証サービスを活用することで、多くの企業が生体認証を活用できる環境が整う」(同)としている。なお、同技術は、2017年3月7日から、東京・有明の東京ビッグサイトで開催される「リテールテックJAPAN 2017」で公開される予定だ。

下記は富士通による資料

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