採用コストをどう減らしていくか?
この離職率の低下に役立つのがデジタル技術である。具体的な事例をいくつか昇華強いよう。国内IT企業A社は、離職率が20%前後で推移しており、その結果、採用コストだけではなく、新人教育コストも無視できない規模に膨らんでしまっていた。
しかし、安易なコスト削減はサービスの根幹である人材の能力の低下を招き、ひいては自社の競争力自体を損なってしまう。そこで、全社プロジェクトして組成されたのが、離職率の低下に取り組むプロジェクトである。A社は新規採用者のモチベーションの状況を、毎週末のウェブ調査で定点観測する仕組みを導入した。
また、あわせて採用時の性格分析調査結果と突き合わせることで、離職しやすい新入社員のパターンを見つけ出した。そして、そのパターンが該当する社員を事前に把握し、該当社員の直属の上司に注意を促す仕組みを構築したのである。
この仕組みは、現場の管理職からも歓迎された。新人の離職の穴埋めに奔走するのは現場管理職であるが、数十人規模の部下を管理している現場管理職が、全ての新入社員に目を配ることは事実上不可能であったためである。
同様の仕組みは、グローバル企業であるB社でも採用されている。B社の従業員はグローバルで数万人規模のため、オンライン調査の実施は難しいため、社員の属性情報に加え、勤続年数、異動の実態、人事評価、上司の情報をデジタル化し、離職実績と突き合わせることで、離職可能性が高い社員を事前にスクリーニングしている。
B社においても解析結果は、年に1回コンフィデンシャル情報として上司に連絡され、上司に当該社員の動向に注意を促すようにしている。
将来的に活用の可能性が高いのはサービス業であろう。アルバイトやパートスタッフなど、多様な雇用形態が存在し、かつ、人材の流動性の高い業界において、離職率を低下させる取り組みの意義は大きい。例えば、コールセンターを要する国内中堅企業であるC社では、スタッフの勤務実態や休憩時間などの稼働状況と、スタッフの人事情報を常にモニタリングすることで、離職可能性の高い社員を特定している。
さらに、この企業では、スタッフのシフト要望なども吸い上げることで、スタッフの満足度向上にもデータ分析が一役買っている。