「日本は理工系の学生が少なく、AI(人工知能)×データの専門家がそもそもいない」――ガートナーが開催した「データ&アナリティクス サミット2017」の5月23日の基調講演に登壇したヤフーのチーフストラテジーオフィサー(CSO)を務める安宅和人氏は、「AI×データが世の中をどう変えるか?」と題する講演でこう述べた。
ヤフー チーフストラテジーオフィサー(CSO)の安宅和人氏
「現状では勝負になっていない。だが、(著名なアニメーション作品を挙げて)”妄想”の量では負けていない。産業革命時と同じく、AI×データの第1の波には乗れなかったが、第2、第3の波に乗れば勝機はある」
冒頭で安宅氏は、現在の社会が歴史的な局面にあることを指摘した。一番の変化は、人々がコンピュータを持ち歩くようになったこと、そして、コンピュータ自体の処理性能も上がっていることだ。例えばiPhone 6は、かつて最も高速だったCrayのコンピュータの20倍速いと話す。
「世の中は急速に変わる。今後は全ての産業がビッグデータとAIを活用するようになる」と安宅氏。社会が急速に変化する事例として、聴講者に1913年のニューヨークの写真を見せた。T型フォードが発売された1908年からわずか5年でニューヨークに自動車が溢れていることが分かる資料だ。
「米国以外は人口が減る。『未来を変えている感じ』がしないと、大きな富にはつながらない。妄想して、カタチにする力が富に直結する」
データの活用方法は大きく2つあるという。1つはデータの可視化であり、「見えるようにする」だけで価値がある。例えば、活動量計のデータを複数人分用意すれば、人間関係が見えてくるといった具合だ。もう1つは、世の中の現象をモデリングして予測に役立てることだとしている。
全量性とリアルタイム性がビッグデータの本質
安宅氏は、ビッグデータの本質が「全量性とリアルタイム性」だと指摘する。
「ある1日の間にモバイルアプリから取得した経緯度の情報をプロットすると、日本地図のようになる。人がいない場所も見える。ビッグデータの全量性によって、サンプルデータだけでは絶対に見えなかったパターンが見えるようになる」
もう1つのリアルタイム性によって、これまで存在しなかった新しい価値を生み出せる。「従来とは桁違いにメッシュが細かく新鮮な情報を活用できる」
ドイツにおける消費者金融の事業者の例では、GPSデータなどの活用によって、融資の与信に費やす時間を数日から数十秒に短縮したという。別の企業のケースでは、店舗へのトラックの出入りなどの情報を活用して、企業への投資を判断するための情報をリアルタイムに提供する。
ビッグデータをリアルタイムに処理するためにはAIが必要になる。一方、AIはデータをかき集めてアルゴリズム化する。つまり、AIとビッグデータは相互に”入れ子”の構造関係にある。
AIの用途について安宅氏は、情報識別と予測を挙げる。情報識別の例が、ディープラーニング(深層学習)をいち早く実用化した「Google Photo」だ。登録した写真を自動的に識別する。医療分野の例では、AIを使った画像による皮膚がん診断が、人間による診断よりも好成績を挙げたという。
予測では、米Amazonが特許を取得している、顧客が注文する前に出荷する事例を紹介した。また別の事例としては、Tesla Motorの自動車が交通事故を予測するというものがある。360度ミリ波レーダーで把握した周囲の状況から交通事故を予測し、事故が起こる直前にドライバーへ音で警告してくれるものだ。