第2回:要求だけでは使い物にならない?--要件定義で最初に気を付けるべきポイント

村岡恭昭 (IPA/SEC技術研究員)

2017-05-31 07:00

 「住まいを購入するまでのプロセスは、システム開発における要件定義とよく似ている」をコンセプトに、要件定義のプロセスを解説する本連載。

 第2回は、要件定義で最初にすべきことに焦点を当て、そのプロセスを解説していく。というわけで、千石君の「家づくりプロセス」から見ていこう。

家づくり編:住宅購入スタイルと自分たちの思いを整理

 前回、住宅アドバイザーに「家購入の目的と優先順位を話し合ってみましょう」とアドバイスを受けた千石夫妻。お互い「家に何を望むか」を話し合いました。

千石君:で、君は、家にどんなことを望んでいるの。

千石夫人:私にとって大事なのは“住みやすい環境であること”なの。だから、文京区に住みたいわ。それが叶うなら家は多少は狭かったり小さかったりしてもいいわ。

千石君:なぜ「住みやすい環境=文京区」なの?

千石夫人:だって文京区は環境がいいでしょう。

千石君:答えになってないよ。治安がいいとか職場からも近いとか……。そういう具体的な視点はないの?

千石夫人:そう、それ。それが言いたかったの。それでね、この間も言ったけど、やっぱり一戸建てに住みたい。無理かもしれないけど、はじめからあきらめるのはもっとイヤ。

千石君:要するに、君の希望は「文京区」で「一戸建て」だね。ただ、2人の貯金と稼ぎで到底無理だったら、その要件は見直す必要があるよ。無理にローンを組んで、払えなくなって、家を売って最後に残ったのは借金だけだったとか、シャレにならないからね。

千石夫人:(聞いてない)……とにかくどんな物件があるか、文京区の不動産屋さんを回ってみましょうよ。ね。

 というわけで、2人は文京区の不動産屋さん巡りをすることにしました。

エステート本駒込:いらっしゃいませ。

千石君:この近所で住宅を探しています。持ち家が希望です。土地だけでも、建て売りでも中古物件でもいいですが、一戸建てはありませんか。

エステート本駒込:分かりました、ではご予算、ご希望の広さ、間取りなど、ご希望をなるべく詳しく教えてくだざい。私、営業の白山(しらやま)と申します。

千石君:はい……。実は、一戸建てをこの近所で持ちたいというだけで、概算の予算くらいしかイメージができていないんです。文京区の一戸建ての相場を教えてください。

白山:最初に申し上げますが、文京区は値が張ります。また、一戸建ての物件自体がなかなか出ないんですよ。例えば、今、売りに出ているこの物件、40坪で5LDK、庭付き、2台のカーポート付きです。

 さらに、この辺りは低層住居専用地域ですから、将来近くに大きなマンションが建つ心配もありません。地下鉄の駅からも近いですから、生活環境は申し分ないですよ。それで、価格は諸経費込みでざっくり1億円です。

千石君:……。

千石夫人:おほほほ、もうちょっと考えてみます。ありがとうございました。またうかがいます。

白山:そうですか、ではまたご来店をお待ちしております。

千石君:(店の外で)ちょっと……今の値段、聞いたか?

千石夫人:あの物件は私たちに必要ないものが多すぎだわ。40坪なんて広すぎだし、カーポートも不要よ。閑静な住宅地であることは魅力的だけど優先事項じゃないわ。

 それに、不要なものにお金を掛ける必要もないでしょう? 機能が盛りだくさんだからって使いやすいとは限らないじゃない。とにかく、もっと情報収集しましょう。

千石君:1億円かぁ。どうやったら貯められるんだろう。

 1億円という金額に気が動転した2人。それでもめげずに情報収集に励みました。

 そんなある日、白山さんから連絡がありました。いくつか物件があるとのこと。さっそく2人はエステート本駒込を訪ねました。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ZDNET Japan クイックポール

マイナンバーカードの利用状況を教えてください

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]