第2回:要求だけでは使い物にならない?--要件定義で最初に気を付けるべきポイント - (page 3)

村岡恭昭 (IPA/SEC技術研究員)

2017-05-31 07:00

要件定義編:その要件は目的にあっているのか?

 業務拡大に向けてネット通販サイトを自社で立ち上げるべく、その「要件定義」を任された千石君。前回は「納期の即時回答」や「早期の立ち上げ」といったことを要件に盛り込もうと矢継ぎ早に提案しました。

 しかし、「自分のやりたい業務ができるシステムを構築したい」という「要求」ばかりに意識が向き、それを実現するために必要になる「業務機能=要件」や「実現性」までは考えが及びませんでした。

 というわけで、千石君。“使い物になる”要件定義を作成すべく、「要件を定義する上で最初に気を付けるべきポイント」を巣鴨課長に質問しました。

経営や業務に貢献するITシステムをいかに構築するか

千石君:要件定義って要求するだけじゃダメなんですね。前回の失敗で身をもって知りました。

巣鴨課長:要件定義で最初にすることは、「目標をハッキリさせること」だね。今回、君が担当する新たなECサイトの構築が、何を目標としたプロジェクトなのかを明確にすること。その上で、完成したら何ができるようになればいいのか、それを社内の誰にでも説明できるぐらい明確にすることだね。

千石君:「社内の誰にでも説明できる」って、ハードル高いですね。

巣鴨課長:要件定義というのは、いろんな人のいろんな思いを集めて、どんなものを開発したいのかを決める作業だ。これから経験するだろうけど、人によって思いはさまざまで、みんなの言うことを聞いていたら意見はまとまらない。

 そこで、何を選択するかの決め手になるのが、「その要件は目的にあっているのか」だ。これが明確になっていれば、いろんな意見が出ても軸がぶれないですむと思うよ。

千石君:はい。

巣鴨課長:そこでだ。プロジェクトの目標を決めるときには、「その目標が会社の経営方針に沿ったものであるか」を常に考える必要がある。さらに、その目標に対してプロジェクトにかかわる全ての人が納得していることが必要だ。

千石君:このプロジェクトが稼働したら、会社の経営方針も大きく“イノベーション”しますよ。

巣鴨課長:それは別次元の話だな(笑)。それともう1つ、忘れちゃいけない大事なことがある。「目標は達成したかどうかを評価できるよう具体的にする」ということだ。どうしてだと思う?

千石君:目標が曖昧だとシステムが稼働したときに、それが成功か失敗かをはっきりと評価できない、からだと思います。

巣鴨課長:よく分かっているね、じゃ、もう1つ質問。今回のシステムの要件定義がうまくいったかどうかはいつ評価されると思う。

千石君:それを質問されるということは、「要件定義通りのシステムが稼働したとき」じゃない、ということですよね。

巣鴨課長:鋭いね。ずっとシステムの開発と運用を担当してきた僕たちなら、まぁ「システムが本稼働したとき」が答えでもあっていると言えなくはないけど、千石君には、ぜひその先を見てほしい。

千石君:その先……ですか。

巣鴨課長:僕たちシステム部門が担当するシステム開発の成否は、コスト、納期、品質目標が守れたかどうかで評価される。それらを守って無事に本稼働させるというのは重要なことだ。その段階でつまずくプロジェクトなんていくらもある。

 だけど、要件定義の評価は、システムが稼働してからが始まりなんだ。プロジェクトを始めるときに狙った業務目標が、運用開始後にちゃんと達成できているかどうかを評価する。そこでやっとうまくいったかどうかが決まるんだ。

千石君:ずいぶん遠い話なんですね。

巣鴨課長:そう。だからこそ、具体的な指標を設定することが必要なんだ。掲げた目標が曖昧だと客観的に評価できない。できれば数値で表すことができるような目標にすること。一昔前は仕様書を書くときに「形容詞や副詞を使うな」と教わった。

千石君:意識高い系企業のプレゼンみたいになるからですか? 中身がスッカスカでも身振り手振りで勝負みたいな……。

巣鴨課長:いつもの調子が出てきたね。でも違うよ。例えば、「高速で動く」と書いても、人によって高速の基準は異なる。だから、その場合には「入力後1秒以内に応答がある」と書かないといけない。これであればだれでも評価できるからね。

 今回、千石君は、「自社サイトで直接受注を開始」して、「販売エリアの拡大」「コラボ商品の充実」「直販比率の向上」を目標にしている。つまり……。

千石君:「拡大」や「充実」や「向上」が何を意味するのかを客観的に評価できるよう、それぞれ指標を決めること。ですね。そして、システム稼働後にはきちんと評価してもらえるようにします。

巣鴨課長:そう。それと、プロジェクトの目標を見失わないように。手っ取り早いのが「社長をうまく使うこと」だよ。プロジェクトの目標とその必要性を社長が宣言すれば、みんなの士気は上がる。その上で、その目標を忘れないよう壁に張って、いつもみんなで見ながら会議する。これがうまくいく秘訣だね。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ZDNET Japan クイックポール

注目している大規模言語モデル(LLM)を教えてください

NEWSLETTERS

エンタープライズ・コンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]