ガートナー ジャパンが5月23、24日に開催した「データ&アナリティクス サミット2017」では、米Gartner リサーチ部門バイスプレジデントのAlexander Linden氏が、人工知能(AI)と機械学習に関するトレンドを解説した。同氏は、「AIは、人工知能(Artificial Intelligence)というより、アメージング・イノベーション(Amazing Innovation)の略だと思っている」と語る。
米Gartner リサーチ部門バイスプレジデント アレクサンダー・リンデン氏
Linden氏は、「問題解決の方法が大きく変わった。パラダイムシフトが起こった」と説明する。従来の方法は、まずは問題を細かく分解して理解するというアプローチをとった。小さな問題を解決しながら、それらをまとめることで全体の解にする――というものだ。しかしこれは、例えば、離脱率の予測や故障の予知などには使えない。
そして現在、機械学習という異なるパラダイムが出現した。問題の中身について理解する必要はなく、ただ成果物を得られればよいとするアプローチだ。ここでは、元になるデータと機械学習のアルゴリズム、そして、計算のためのインフラが必要になる。Linden氏は、この方法へと導くのが、現在のデータサイエンティストの役割だと解説する。
機械学習は、この5年ほどで大幅に進歩した。2012年に多層型のニューラルネットワークであるディープラーニング(深層学習)が画像認識において成果を挙げたことが大きなきっかけになった。「IMAGENET Large Scale Visual Recognition Challenge 2012」と呼ぶ画像認識の競技において、それまで約30%で推移してきた誤分類率が、ディープラーニングによって突然15%に低下した。
ディープラーニングは2012年に大きく飛躍し、2013年には多数の試みが行われるようになった。2016年の米Microsoftによる画像認識の成績は、既に生身の人間を超えているという。
Linden氏は、「AIが人間の仕事を奪う」という、よく聞かれる誤解についても、こう指摘する。
「AIは単なるコンピュータのソフトウェアに過ぎず、人間の代わりにはならない。われわれはコンピュータに、(仕事を)一貫性を持って高速にやってほしいだけだ。人間のようにパーティーをしてほしいわけではない」
加えてLinden氏は、「われわれは脳の一部しか理解していない」と現状を説明する。「もし人間の脳が非常に単純であり、われわれが脳を理解できるとすれば、われわれは非常に単純であり、脳を理解することはできない」という。これが冒頭にある「AIはアメージング・イノベーションの略だと思う」という発言の真意であるようだ。
機械学習でローン審査や需要予測を可能に
Linden氏の講演では主に、(1)機械学習とは何か、(2)そのメリットは何か、(3)リスクと限界は何か――について説明がなされた。
機械学習は、入力と出力の関数を自動作成するものだという。例えば、ローンの申請では、申請されたデータと返済結果のデータを大量に集めて学習させれば、申請データを見るだけで返済能力を判断できる。
他にも、需要予測(製品がいくつ購入されるか)、自律走行車(ブレーキ、アクセル、ハンドル)、購入性向(顧客の買う・買わない)、故障予測(4週間以内に故障が起きるか)、顧客の離脱(解約するのか)、医療診断(病気になるのか)、広告(ユーザーは広告をクリックするか)――などに利用できる。
機械学習のポイントは2つあり、それは「質問が正しいこと」(出力が正しく定義されること)と、「適切なデータを探すこと」だという。
2012年に画像認識で大きな成果を挙げたディープラーニングは、入力と出力の中間層を作成することによって、機械学習を改善しようとする試みだった。顔認識の場合、顔が写った画像と写っていない画像を学習させ、顔のエッジ部分を見つける層や、基本的な形状を判別する層、複雑な形状を判別する層など、複数の層を段階的に利用する。こうして、入力から出力までの中間層において抽象化を進める。