以前のMicrosoftはオープンソースの利用に熱心ではなかったが、今や同社は「Windows」の開発にオープンソースのバージョンコントロールシステム「Git」を使用している。かつては独自のソフトウェア開発環境を使っていた企業の代表例だったMicrosoftが、今や自社OSの開発をオープンソース環境に頼っていることになる。誰がこんな状況を想像しただろうか。
ただ実際には、もし十分な注意を払っていれば、この状況は予想できたかも知れない。Microsoftは2013年に、統合開発環境「Visual Studio」とアプリケーションライフサイクル管理製品「Team Foundation」でGitをサポートするロードマップを発表した。その際、Microsoftのテクニカルフェロー兼Team Foundation Serverの責任者であるBrian Harry氏は、同社の分散ソースコード管理プラットフォームとしてGitを採用すると述べていた。
Microsoftに所属する者全員がこの方針を支持していたわけではないが、Harry氏は当時、「深く検討するに従って、これが正しいと分かってきた」とブログ記事で述べている。
その後、MicrosoftはGitに対して独自のコントリビューションを行うことまでしている。2017年には、「Git Virtual File System」(GVFS)をMITライセンスでオープンソースとして公開した。GVFSによって、Microsoftの製品開発チームは、巨大なソースコードリポジトリをGitクライアントで扱えるようになった。
それ以降、MicrosoftはWindowsの(文字通り)すべてのコードをGitとGVFSに移行し始めた。この作業はすでにほとんど終わっており、Microsoftがオープンソースに対して行った貢献の成果を存分に利用した、世界最大のGitリポジトリが作られようとしている。
Harry氏は、「この3カ月間で、MicrosoftのWindows開発チームに対するGitとGVFSの導入はほぼ完了した」と述べている。これは簡単な作業ではない。「Windowsのコードベースは、約350万個のファイルからなっており、Gitリポジトリにチェックインすると、サイズは約300Gバイトになる」という。
これはファイルだけの話だ。Harry氏はさらに、「Windows開発チームには4000人のエンジニアがおり、エンジニアリングシステムは毎日数千件のプルリクエストの検証ビルドに加え、440のブランチで『ラボビルド』を1760回生成している。これらの3つの要素(ファイル数、リポジトリサイズ、利用量)は、それぞれ別のスケーリングに関する課題をもたらすため、それらが組み合わさると、よい体験を生み出すのは非常に困難になる」と述べている。
Harry氏は、この作業は恐ろしい体験だったと認めている。「最初の、そして最大の山場は、3月22日に約2000人のエンジニアからなるWindows OneCore開発チームに導入したときだった。この2000人のエンジニアは、金曜日にSource Depotで作業を行い、帰宅して週末を過ごし、月曜の朝に戻ってきて、Gitを体験することになった。週末の間、わたしのチームのメンバーは、月曜日に仕事ができずに激怒したエンジニアの大群に襲われませんようにと緊張しながら祈っていた」という。
「ところが、正直なところ驚いたのだが、移行は極めてスムーズに進み、エンジニアたちは初日から作業を進めることができた」(Harry氏)
しかし、すべてが順調だったわけではなかった。同氏は、「最初の週に、プルリクエストとマージ時の競合の解決のためのUIが、この規模の変更頻度に対応できないことが分かった。われわれは、急いでリストを仮想化し、とにかくUIがハングしないように1つずつデータをフェッチするようにせざるを得なかった。この問題は2日ほどで解決し、その週は最終的には予想していたよりもずっとよい状況で終えることができた」と述べている。