トム・ソーヤは、ある日、いたずらの罰として壁のペンキ塗りを言いつけられた。当初ペンキ塗りは、つまらない退屈な仕事であったが、一計を案じたトムは、友人の前でいかにもこの仕事が楽しくて仕方がないふりをする。
すると、その友人はペンキ塗りをしたくなり、自ら仕事を代わってもらいたいと言い出す。それを繰り返すうちに、トムは働くことなく「ペンキを塗りたくなった子供達」から金品をもらうようになった、という寓話である。
この寓話はデータ共有やデータ分析について、日本企業のジレンマを表すのに適しているように思われる。
企業として全社的にはデータを基に新規事業を作り出したい一方、思惑と裏腹に社内のデータ共有が思うように進まないことが多いのはなぜか。
この背景には、データを提供する際のポリシーの策定が定まらないことや、実際にはデータを共有するメリットがなかった場合に、投下した工数や予算などにかかるリスクなど、ネガティブな要因が先行することが挙げられる。
データ主導のビジネスモデルの成功例がない一方で、そのデータが新たなビジネスチャンスになる可能性があるため、率先してデータを提供したいとも思えない。そのため、データの共有やデータ活用の初期段階では「(リスクを抱えているだけの)つまらない退屈な仕事」である。
だが、少なくとも一つの成功事例が構築されれば、あたかもデータを共有することが楽しいことのように思われ、データの所有権を持つ部署から「うちのデータを預かってくれないか」「うちのデータも解析してくれないか」と、マイナスの事態がプラスに一変することもあるという経験を筆者はしてきた。
オープンデータの可能性と解析事例
「データがない(ので共有が進まない)」問題について、当然ながら、自社にどんなデータが蓄積されているのか確認する必要がある。データ分析基盤については他稿に委ねるとして、ここでは、データビジネスのPoC(Proof of Concept)として、事例を示すことが重要であろう。
今回は、オープンであるメリットに関して言及するために、データ公開元の組織が異なる複数のデータを用いた分析例を提示する。電力に関連するデータは「でんき予報」から取得する。
また、気象データに関しては気象庁の公開するデータを用いて、電力需要と気温の間にある気温感応度をグラフ化し、次に気温を変数として電力の需要の予測モデルを作成する。さらに、太陽光発電と日射量の関係を事例として紹介する。
電力の需要に関して、まずこれをグラフ化すると以下のようになる。
- 東京エリア1時間毎の電力需要
- 東京エリア電力供給量別
- 気温と電力需要の関係


電力供給の大半が火力発電によるものであることが分かる。
電力の需要は、基本的に夏と冬に高くなる傾向がある。これは、冷暖房に起因するものであり、それを理解しやすくするために、気象庁のデータと電力の需要を合わせて考える。

気温が低い時と高い時の両端になるにつれ、需要が増加することが分かりやすくなるであろう。