富士通研究所は11月15日、異なる仮想通貨の交換や決済を簡単かつ安全に実行できるセキュリティ技術を開発したと発表した。同技術を用いた模擬的な仮想通貨の交換システムによる実験では、通貨交換を実行すると資産移転に関わる全ての取引証跡が接続用のブロックチェーンに記録されることが確認された。金融分野をはじめとする分野で検証を進め、2018年度以降の実用化を目指す。
同研究所では、この技術によって個人が運営するような仮想通貨を扱う小規模ネットショップなどで新たな地域通貨に対応することが容易となるとしている。また、特定の仮想通貨を保有している利用者を対象とした優遇交換のキャンペーンなど、変換レートを自由に定義できるようになるという。
この技術は「コネクションチェーン」と呼ばれるもので、複数のブロックチェーン間を新たなブロックチェーンで接続し、各チェーンにおける一連の通貨交換に関わる取引処理をひも付ける。
同技術は、全体を1つの取引として自動実行可能とするスマートコントラクトの拡張技術と、各チェーンでの取引処理の実行タイミングを同期させるトランザクション制御技術で構成されている。チェーンを横断する場合にも、全ての取引処理が接続用のブロックチェーンに証跡として記録されるため、取引の透明性の保証が可能となる。
従来、仮想通貨などの資産を相互に流通するサービスでは、取引や契約を自動化するスマートコントラクトは1つのブロックチェーンに閉じた範囲でしか動作しなかった。
複数のブロックチェーンを横断した取引の課題(出典:富士通研究所)
複数のブロックチェーンを横断した取引を実現する場合は、変換レートや手数料を適用するなどの業務処理を行うアプリケーションの透明性の確保や、複数のブロックチェーンの取引タイミングを制御して、連続する一連の取引として扱えるようにすることが必要となる。
コネクションチェーンでは、スマートコントラクトの拡張技術とトランザクションの制御技術でこの課題を解決する。
コネクションチェーンによる価値の移転(出典:富士通研究所)
スマートコントラクトの拡張技術は、新たにブロックチェーン同士を連携させるためのノードを立て、接続用のブロックチェーンであるコネクションチェーンを構築する。この連携ノードを経由して2つのブロックチェーンから該当する取引処理が含まれるブロックのデータを抽出し、各取処理をひも付ける。
これにより業務処理を含む一連の取引が1つのスマートコントラクトとして自動実行可能になる。アプリケーションではなく、ブロックチェーンそのものの仕組みを使ってひも付けや業務処理を実行されることになり、透明性の確保や処理の正しさの確認が可能となる。
トランザクションの制御技術は、資産預託の概念を設計し、システムを構成する全ブロックチェーンの取引処理に応じて資産の移動を制御するもの。資産移転元では取引処理を確定させずに資産を一旦保留状態にして、移転先の通貨移動を確認してから資産移転元の取引状態を確定させる。これにより従来のブロックチェーンでは困難だった取引処理の待ち状態を発生させ、全体の成否に応じた取引処理の確定、取消を実現できる。
資産移転トランザクションの詳細(出典:富士通研究所)
仮想通貨の交換システムによる実験では、2つの異なるアーキテクチャのブロックチェーンを相互接続し、仮想通貨の交換による資産移転を実行した。
その結果、資産移転に関わる取引記録として各ブロックチェーンの取引IDや移転資産の数量、結果などが1つの取引としてコネクションチェーンに記録されることが確認できた。また、支払や決済ができないなどの理由でチェーンを横断する取引が途中で失敗する場合は、保留状態の資産を元に戻す取引処理のIDやタイムスタンプが記録されることも確認できた。