デジタライゼーションの潮流により、製造業や流通業などのユーザー企業では、本業分野でのデジタル技術活用が活発化し、IT技術やソフトウェア開発に関する知識やスキルを持つ人材を確保するニーズが高まっています。しかし、多くの企業ではIT人材は不足していることから、今後争奪戦が激化することが予想されます。
不足するIT人材
経済産業省が2016年6月に発表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、マクロな規模でのIT人材(IT企業およびユーザー企業情報システム部門に所属する人材)は2015年時点の人材数は約90万人であり、この時点ですでに約17万人が不足していると推計されていました。2019年をピークに人材供給は減少傾向となり、より一層不足数が拡大することが予想されています。今後IT人材の供給力が低下するにもかかわらず、デジタライゼーションの潮流に向けたITニーズの拡大によってIT市場は今後も拡大を続けることが見込まれるため、IT人材不足はますます深刻化し、2030年には、(中位シナリオの場合で)約59万人程度まで人材の不足規模が拡大すると述べています。
人材確保・育成の選択肢
多くのユーザー企業では、従来の業務システムや社内向けのITインフラの企画・開発・運用を行うIT人材も十分に抱えているというわけではなく、さらにそれに加えてデジタル・イノベーションを推進するとなると人材不足は深刻といわざるを得ません。デジタル・イノベーションを推進するスキルが不足する部分は、内部人材を育成するか、社内外から採用・確保する必要があります。社内外からの確保には、外部からの中途採用と社内事業部門・企画部門からの配置転換などいくつかの選択肢が存在します。 本連載「イノベーションに求められる人材像とは」では、デジタル・イノベーションの推進においては、人や組織を動かしながら全体を統括するプロデューサー、技術的な目利き力と実践力を持ったデベロッパー、そしてアイデアを生み出し、モデル化するデザイナーの3つのタイプの人材が必要であると述べました。これらの人材タイプごとに、社内外からの確保と内部人材の育成という両面においてさまざまな取組みが考えられます(図1)
図1.IT人材の確保と育成に向けた取組み/出典:ITR
さて、このような状況を踏まえて、デジタル技術の活用に積極的な一部のユーザー企業では、こうした人材の確保に動き始めています。同業種・異業種のIT人材やITベンダーの技術者を中途採用しようとする動きも活発化しつつあります。NEC、富士通、日立などの研究所やソフトウェア開発拠点が多く立ち並ぶ南武線沿線にトヨタ自動車が「えっ!?あの先端メーカーにお勤めなんですか!それならぜひ弊社にきませんか」「シリコンバレーより、南武線エリアのエンジニアが欲しい」と書かれた求人広告を出したことが昨年大きな話題となりました。今後IT人材の争奪戦がさらに激化することが予想されます。