自動運転による円滑な道路交通社会の実現や新しいモビリティサービス産業の創出、日本の地方再生、日本の自動車産業の競争力強化などさまざまな期待がなされている中、自動運転に関する制度整備の対応も急がれている。
政府のIT総合戦略本部は2018年4月17日、「第12回 新戦略推進専門調査会」を開催し、「自動運転に係る制度整備大綱(案)」を公表した。
本大綱では、自動運転がこれからの日本の新しい移動・物流手段を生み出す「移動革命」と、多くの社会課題解決による豊かな暮らしをもたらすことが期待されている中、2020年までに高度な自動運転(レベル3以上)の実現に向けて、道路交通に関連する必要な関連法制度の見直し方針を策定している。
大綱の検討範囲は、高度自動運転の初期段階である2020年~2025年頃の公道において自動運転車と従来の非自動運転車(一般車)が混在する「過渡期」を想定し、以下のレベルを設定している。
- 自家用自動車
- 高速道路での自動運転(レベル2、レベル3)
- 一般道での自動運転(レベル2)
- 物流サービス
- 高速道路でのトラックの隊列走行
- 高速道路での自動運転(レベル3)
- 移動サービス
- 限定地域での無人自動運転移動サービス(レベル4)
- 高速道路での自動運転(レベル3)
日本の自動運転レベルの定義では、以下のとおり、SAE※1 InternationalのJ3016(2016年9月)及びその日本語参考訳であるJASO※2 TP 18004(2018年2月)を採用している。
※1: Society of Automotive Engineers ※2: Japanese Automotive Standards Organization(日本自動車技術会)
出所:自動運転に係る制度整備大綱(案) 2018.4
自動運転の実用化に向けては、段階的な技術の進展が見込めることを前提とした上で、自動運転向け走行環境条件設定による安全性の担保を行う。
自動運転向け走行環境条件では、「走行速度を低速(決められた速度以下)に抑える」「決まったルートのみを走行する」「走行する天候・時間などを限定する」「遠隔型自動運転システム等に必要な通信条件を整える」などを例に挙げ、自動運転技術の進展とともに、客観的な指標や新技術に係る保安基準が整備されていくことで、人間の操作や条件などの制約が徐々に緩和されていくことが期待されている。
出所:自動運転に係る制度整備大綱(案) 2018.4
本大綱で重点的に検討する範囲とその方向性として以下を挙げている。
- 安全性の一体的な確保
- 自動運転車の安全確保の考え方 (道路運送車両法等)
- 交通ルールの在り方 (道路交通法等)
- 責任関係(自動車損害賠償保障法、民法、製造物責任法、自動車運転死傷処罰法等)
- 運送事業に関する法制度との関係
- その他
それぞれの概要を紹介する。
「安全性の一体的な確保」では、安全基準を技術レベルに応じて検討するとともに、地域特性なども勘案しつつ、自動運転向け走行環境条件設定について関係省庁で連携して客観的な指標として検討・策定する。
「自動運転車の安全確保」では、自動運転車の制御システムの安全性やサイバーセキュリティといった設計・開発の際に考慮すべき要件など、自動運転車が満たすべき安全性に関する要件や安全確保のための方策について検討し、2018 年夏ころを目途にガイドラインとして取りまとめる。また、自動運転車における保安基準の策定や走行記録装置の義務化、使用過程車の安全確保策といった対応も進めていく。
「交通ルール」では、自動運転システムが、道路交通法令の規範を遵守するものであることを担保するために必要な措置など、安全性の確保を前提とした世界最先端の技術の実用化を目指した交通ルールの検討を行う。
十分な議論・検討が必要となるのが、自動車損害賠償保障法、民法、製造物責任法、自動車運転死傷処罰法などが関係する「責任関係」だ。
万が一の事故の際にも迅速な被害者救済が確実になされるための枠組みの構築や、事故時の責任関係の明確化及び事故原因の究明に取り組みを進めるにあたって、データ取得・保存・活用が必要となり、2020年を目途に、データ記録装置の設置義務化、データの記録機能、情報保有者の事故時の記録提出の義務化の要否も検討する。
本大綱の策定にあたって、「2020年に自家用自動車における高速道路での自動運転」や「2020年に限定地域における無人自動運転移動サービス」の実現イメージを想定した安全確保や交通ルールのあり方、責任関係を整理している。
2020年に自家用自動車における高速道路での自動運転(実現イメージ)
出所:自動運転に係る制度整備大綱(案) 2018.4