SAPは6月5日より3日間、米フロリダ州オーランドで年次イベント「SAPPHIRENOW 2018」を開催した。今年の大きなテーマはインテリジェント・エンタープライズ。最高経営責任者(CEO)のBill McDermott氏は「ビジネスプロセスそのものにAIを組み込む」とSAPのアプローチを説明した。
人と機械が組む「インテリジェント・エンタープライズ」
ERPなどSAPが得意とする業務アプリケーションへのAIの活用については、2年前のSAPPHIREで共同創業者のHasso Plattner氏が方向性を明らかにしていたものだ。今年は「インテリジェント・エンタープライズ(Intelligent Enterprise)」という言葉でビジョンとSAPの技術を説明した。
McDermott氏はまず、AIの雇用への懸念に配慮しながら、チェスの元世界王者Garry Kasparov氏(Kasparov氏は1997年、IBMのDeep Blueとの戦いで負けた)からの言葉として「人とコンピュータが一緒に働く」という考えを示す。「人間+高速なマシン+劣ったプロセス」よりも「人間+マシン+優れたプロセス」の方が良い、とし「プロセス」こそが重要であるとMcDermott氏は言う。「プロセスは時間の経過とともに素晴らしい結果を生む乗数」(McDermott氏)であり、そのビジネスプロセスを生業とするSAPは今後、AIを組み込んでいくと言う。
「(AIと人間の協力により)人間を増強する。新しい経済成長が開けるだろう」とMcDermott氏、「SAPはインテリジェント・エンタープライズの実現を支援する」と言う。SAPPHIREで発表したCRM「C/4 HANA」もインテリジェント・エンタープライズの一部と位置付けられる。
AIは2030年までに世界経済に16兆ドル貢献するという調査を紹介しながら、「動的に価格付けを行ったり、製品化への時間を短縮できたりメリットは多い」。AIによるコスト削減は年4兆ドルレベルという調査も紹介した。
データ統合「SAP HANA Data Management Suite」
インテリジェント・エンタープライズの特徴は、統合だ。エンドツーエンドのプロセスを再考し、デマンドチェーンとサプライチェーンの接続により、ビジネスの全要素が顧客のために動くためには、データがスタート地点となる。
SAPは2017年秋に、データを動かすことなくあらゆるソースからデータを集める技術「SAP Data Hub」を発表しているが、SAPPHIREでは「SAP HANA Data Management Suite」を発表した。SAP Data Hub、「SAP HANA」「SAP Enterprise Architecture Designer」「SAP Cloud Platform Big Data Services」で構成される。
「SAP HANA Data Management Suite」
オンプレミス、クラウドの両方の技術を備えるハイブリッド型で、企業が必要とするデータの安全性やガバナンス、リネージ、追跡、モニタリングなどが可能となる。
プロダクト&イノベーション担当のBernd Leukert氏が「SAP HANAの次」と位置付ければ、McDermott氏は「SAP HANAを拡大するもの」と表現する。
データ統合への大きなフォーカスは、HANAありきといえる。「グラフ、地理空間のサポートといったHANAの機能を活用でき、PaaSのSAP Cloud Platformを利用してユーザー体験、セキュリティ、マスタデータのガバナンスなどを標準化して、全てのSAPアプリケーションに新しいインテリジェントスイート機能をもたらす」とMcDermott氏。
オープン性も特徴で、SAP以外のデータも統合可能。イノベーション技術群の「SAP Leonardo」を使ってアプリケーションにインテリジェンスを直接組み込むと言う。さらには、ビジネスネットワーク「SAP Ariba」への接続など、可能性は広がる。
「機械の精度は人間よりも95%優れる。次の成長する企業は、人と機械が同じ側で働くを実践できる企業だ」とMcDermott氏は述べ、会場の顧客に向かって(AI時代、インテリジェント・エンタープライズに向けた)次の動きを考えるべきだと助言する。