カブドットコム証券は8月7日、株式・先物・オプション取引に対応したAPI環境「kabu.com API」のITインフラをAmazon Web Services(AWS)のクラウド基盤に刷新したと発表した。API基盤をクラウド化することで、システムのスケーラビリティとセキュリティを強化したほか、構築に伴うコストを約2分の1に圧縮した。
カブドットコム証券は、三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)傘下のインターネット証券会社。2012年からAPI環境としてkabu.com APIを公開し、発注系や注文照会、残高照会、リアルタイム時価情報など、従来は証券会社ツールを介さなければ得られなかったデータを外部に提供している。
kabu.com APIを活用することで、金融サービスなどを提供するパートナー企業は、証券基幹システムに関する部分についてはカブドットコム証券の基盤を利用し、ユーザー体験(UX)やサービスアイデアの実装に開発資源を集中できるようになる。「オープンイノベーションの加速により、異業種の証券業参入が容易になる」(カブドットコム証券 代表執行役社長 齋藤正勝氏)
同社は創業以来、証券取引システムを自社開発し、データセンターやネットワークなども含めて大部分を自前で構築、運用してきた。一方で、近年はIT人材の確保やセキュリティの対応、サービス可用性の向上など、システムへの要求は日々高まっている。
今回の刷新では、kabu.com APIのITインフラをAWSのクラウド基盤上に再構築。東京リージョンで稼働を始めている。クラウドファーストを前提としたシステムの開発・実装・運用を目指した。クラウド基盤では、認証認可の仕組みやキャッシュシステムなどの機能が部品化され、マネージドサービスとして提供されているなど、システム実装やセキュリティ対策に掛かるコストが軽減されると試算した。
kabu.com APIを取り巻く環境
オンプレミス環境では、ハードウェアの調達と設置に1~3カ月ほどを要していたが、クラウド環境にすることで、迅速にシステムを拡張できる体制を確保した。従来の調達作業は、社内人員の技量や交渉力に依存していたが、これも不要となった。一方で、運用コストについては、「従来の自社運用によるコストメリットを上回ることは難しかった」(齋藤氏)としている。
今後は、顧客サービス用のウェブサーバなどについてもクラウド環境への移行を計画。事業継続計画(BCP)として大阪ローカルリージョンの利用も検討中だ。
カブドットコム証券がAWSを選んだ理由については、「MUFGでAWSの利用実績があった点が大きい。オンプレミス環境からクラウド環境への移行が自然な流れの中で、AWSが市場をリードしていると判断した」(同氏)
また、自社開発のシステムを使っていることで、クラウド化に伴うライセンス問題が発生せず、移行作業をスムーズに進めることができたという。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン 代表取締役社長 長崎忠雄氏は、「高い俊敏性と柔軟性、セキュリティを提供するAWSにおいて、株や先物のkabu.com APIをオープンにすることで、さまざまな企業と連携した新たな利便性の高いサービスをいち早くお客さまに提供することが可能になる」とした。
「MUFGでは、2018年4月に新中期経営計画を開始した。その柱の一つに『デジタライゼーション戦略』を位置付けている。APIプログラムの『MUFG APIs』はこの戦略の一環として推進している。そうした中で、MUFG APIsの一画であるkabu.com APIの基盤でAWSを採用したことは意義ある取り組みととらえている」(三菱UFJフィナンシャル・グループ 執行役専務 グループCIO兼CDTO 亀澤宏規氏)
左から、三菱UFJフィナンシャル・グループ 執行役専務 グループCIO兼CDTO 亀澤宏規氏、カブドットコム証券 代表執行役社長 齋藤正勝氏、アマゾン ウェブ サービス ジャパン 代表取締役社長 長崎忠雄氏