相次ぐ甚大な災害であらためて確認すべきシステム保護の要点

末吉聡子 (arcserve Japan)

2018-08-16 06:00

自然災害が頻発する日本、「事業停止に陥らない」と言い切れますか?

 2018年6月18日、大阪北部地震が発生した。報道によると最大震度6弱という揺れが数千件の家屋倒壊を引き起こし、火災や水道管破裂なども発生した。死者や多くのけが人も出し、あらためて自然が牙をむくときの容赦ないさまをまざまざと感じさせた。

 そして、その爪痕が残るうちに「平成30年7月豪雨」が発生した。一つの街が丸ごと屋根まで水に浸かってしまう衝撃的な光景には、多くの国民が言葉を失ったことだろう。日本は自然災害の巣窟だ。企業活動を行う上で、私たちはそれを胸に刻まなければならない。

 自然災害は、企業に事業停止をもたらす直接的なリスクだ。たとえ直接被害を受けることがなくても、停電やライフラインの供給停止に陥ったり、公共交通機関混乱や社屋地域への立ち入り制限により社員が出社できない、自然災害を契機に見舞われたりするトラブルは想像以上に多数ある。

 事業停止は企業に大きな機会損失をもたらす。例えば2004年の新潟県中越地震では、被災地に半導体製造工場があった総合電機メーカーが生産ラインの長期停止により、過去最大の連結最終赤字に陥った。また2011年の東日本大震災では、被災地に生産材工場が集積していたことから、メーカー個別の被害にとどまらずサプライチェーン全体が寸断。経済産業省は2011年1~3月期の産業活動分析で、震災の発生した3月だけで、被災地域内の鉱工業生産低下幅がリーマンショック後の5カ月間の低下幅を超えたと報告している。

 いくら想定してもそれを超える災害が起こる可能性はある。しかし、その時になって手をこまねきたくなければ、「できるだけのことはしていた」といえるだけの備えをしておいた方がいい。

まずは守るべきITサービスの優先順位付けを

 企業経営がITと不可分な今日、事業停止から企業を守るために保護すべきはIT資産やITサービスである。経済産業省は、2012年の「ITサービス継続ガイドライン 改訂版」のITサービス継続戦略という項目で、その組織において優先される価値(例えば人命、顧客からの信頼、売上、利益など)という基本概念の確認や業務プロセスのIT基盤への依存性分析、そして、これらに基づいたIT サービスの優先度づけが重要だと説いている。

 ここでキーワードとなるのが、「目標復旧時間(Recovery Time Objective、以下RTO)」という言葉だ。これはITサービスが停止した場合に、いつまでに復旧することが望ましいかを企業で定めるもの。対象となるITサービスが重要であれば重要であるほど、そのRTOは短く設定することが必要になり、業務をその時間以内に復旧させることがITサービス継続における要件となる。まだ企業内で個々のITサービスのRTOが明確でないという場合は、まずこれを見極めるところから始めたい。

重要なITサービスを迅速に復旧するならスタンバイサーバ

 これまで、一般的にITサービスの復旧といえば、まず新しい物理サーバを用意し、そこへOSやアプリケーションをインストールして設定を施し、次にバックアップしておいたデータをリカバリするという手続きをとってきた。そのため、物理サーバの調達、インストールや設定の時間、データをリカバリする時間というものが、どうしてもかかってしまう。特に近年は、“データ爆発”という言葉があるように大抵のITサービスでデータボリュームが大幅に増加しており、このデータリカバリプロセスで相当の時間を要するようになっている。しかし、RTOの短い重要なITサービス、つまり、障害が発生したのち1日以内、数時間以内に復旧させる必要があるものは、その時間が惜しい。

 それではどうすればいいのか。あらかじめ仮想環境でスタンバイサーバを自動作成しておいて、いざとなった時にそれを起動して業務を再開する。これならRTOの短いITサービスにも活用できる。

 それに対応した製品の活用では、例えば、アークサーブの統合型バックアップ/リカバリソリューションにある「仮想スタンバイ」という機能で、Windows環境なら常日頃取得しているバックアップデータからこれを実現することができる。バックアップデータを事前にバックアップソフト側でリカバリまで終えた状態の仮想マシンとしてスタンバイさせることができるため、障害が発生したら、リカバリ済みの仮想マシンを即起動させる(図1)。

図1:リカバリ済みの仮想マシンで業務を再開する「仮想スタンバイ」機能
図1:リカバリ済みの仮想マシンで業務を再開する「仮想スタンバイ」機能

 これは本番サーバと同一のサイトでも、バックアップデータをWAN経由で転送して遠隔地サイトで実行することも可能となる。ブロックサイズレベルの重複排除機能を標準装備する製品では、転送前にデータ量を大幅に削減するため、回線使用料を削減できる。また、複数のスナップショットデータから戻したい時点を選んで起動できる製品もある。

 もしスタンバイサーバを事前に用意しておくのが難しい場合、バックアップデータそのものを使って仮想ゲストマシンとしてサーバを起動する方法もある。アークサーブ製品の場合、障害が発生したらバックアップサーバ上で 「いつのバックアップデータを」「どの仮想ホスト(VMware vSphereかMicrosoft Hyper-V)上で」「どのマウント先か」を指定し、CPUやメモリ、ネットワークといった仮想マシンのリソースを割り当て、5分ほどで仮想ゲストマシンの起動と、データの参照が可能になる(図2)。

図2:バックアップデータを使ってサーバを立ち上げる
図2:バックアップデータを使ってサーバを立ち上げる

 この方法をベースに遠隔地で仮想マシンを立ち上げることもできるが、ここで利用しているのはあくまでバックアップデータの“原本”であり、これに何か起きると、元も子もなくなるため、長期間運用には適さない。

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