エンタープライズAIの隆盛

AIは作りながら、使いながら、育てていく--改善サイクルが成功の鍵

中西崇文 (武蔵野大学准教授) 2018年09月27日 07時00分

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 人工知能(AI)、機械学習などの技術が注目されて久しい。こうした技術の業務活用や社会実装が課題となりつつある。そこで重要となるのは、AIがどのようなものかということだけでなく、業務の課題を解決するための技術としてシステム全体の中でAIを位置付けていく、つまりAIシステムとして考えていくことである。

 さらに、AIシステムは、作りながら、使いながら、育てていくサイクルによって初めて価値を生み出す。これを意識することで、ときに曖昧なAIという言葉を具体化し、新たな価値を生むアプリケーションを構築できるだろう。

AIの導入事例はどんどん増えていく

 こちらの記事にあるように、AIを手掛ける台湾のAppierは「日本版 アジア太平洋地域でのデジタル変革の促進における人工知能の重要性」という調査レポートを発表している。これは、アジア太平洋諸国(APAC:日本、韓国、シンガポール、台湾、中国、インド、オーストリア、インドネシア)で、AIなどの技術調達の意思決定プロセスに携わるビジネスリーダーおよびITリーダー260人を対象としている。

 このレポートによると、AIの導入について「導入中、拡張中、機能改善中」と答えた割合が高い国は、インドネシア(65%)、中国(63%)、インド(62%)となっている。日本は47%で8カ国中7位にとどまっている。なお、「12カ月以内に導入予定」と答えた割合が高い国は、オーストラリア(35%)、シンガポール(31%)、台湾(28%)、日本・中国(25%)と続いている。つまり、世界ではAIが既に社会実装の段階に入っており、日本も遅れながら進展するものと見られる。AIは導入されて当然なものとなっている。

 AIの導入を遅らせる課題について、APAC諸国で最も多かった回答は「データの収集と、データ増加に伴う大量データの効果的な統合」(53%)、「適切なデータ管理および予測分析プラットフォームの構築」(52%)、「部門横断型チームの設置」(51%)であった。それに対し、日本では「顧客に関する予測的な知見の獲得」(44%)、「データの収集と、データ増加に伴う大量データの効果的な統合」(41%)、「適切なデータ管理および予測分析プラットフォームの構築」(35%)となっている。

 日本を含め、全体的にビッグデータの収集・統合について課題を持っている。一方で、日本固有では、顧客の洞察をどのように分析するかが課題となっている。このような結果になったのは、日本企業が顧客関係管理(CRM)システムの導入によって、顧客データを大量に保持しているにも関わらず、うまく活用できていないからと推測できる。AIで顧客データを有効活用できるのではないかという期待が見え隠れする。

AIシステムを導入する方法

 AIは万能ではない。現在の取り組みにどのような課題があって、それを解決するために利用できる適切なデータがあるか。そして、AIを導入したら、学習させながら運用・活用することで少しずつ効果が見えるものだ。単に高度な技術やアルゴリズムを導入するだけでは、恩恵を全く享受できない。それはまるで、これまでのあらゆるシステム導入の結果、失敗した悲劇を見ているかのようである。例えば、AIの導入は次のような手順が考えられる。

 まず、現在の業務で抱えている課題を明確にするとともに、AIで処理可能な作業に細分化する必要がある。次に、AIの活用に適したデータを十分に取得できるかも重要だ。手元にあるデータだけでなく、今後も継続的に取得可能なのかを検討する必要がある。

 データが準備できたところで、初めてAIについて考える。場合によっては、複数のAIを組み合わせる必要があるかもしれない。または、スモールスタートで始めて徐々にモジュールを入れ替えていくという方法もある。最初から完璧なものを求めてはいけない。どうせ、よちよち歩きから育てていく必要があるのだ。できるところからやることが大切だ。AIシステムは構築して終わりではない。作りながら、使いながら、育てていくのだ。そのサイクルをどれだけ回したかが勝負になる。

 そのサイクルの中で、現場がどれだけAIを理解し、連動して行動するかが成功の鍵となる。AIは現場の人間や業務と連動することで初めて価値が生まれる。その役割分担やビジョンが徹底されているのが重要だ。

AIの開発がサイクルになっていることの重要性

 AIシステムの開発にサイクルが重要なのは、単に学習によって精度を高める仕組みであるためだけではない。現場の業務や人間の行動は複雑だ。そのような複雑な環境とシステムが連動するためには、一度の設計と実装でうまくいくはずがない。人間関係はコミュニケーションを通じて徐々に理解が深まり、信頼関係が築かれていく。AIも同様だ。システムと現場が連携するためには、小さなところからすり合わせていくのが大切だ。

 AI活用は仮想空間の中だけで完結するものではない。現場との連携によって初めて価値を生む。繰り返しになるが、作りながら、使いながら、育てていくサイクルで、現実社会とサイバー世界が密接に結び付いた「サイバーフィジカル」の新たな世界を築く。そうなってようやくAI活用が成功するのだ。

中西崇文(武蔵野大学准教授)
武蔵野大学 工学部 数理工学科 准教授
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター主任研究員、デジタルハリウッド大学大学院客員教授、データサイエンティスト、博士(工学)。1978年、三重県伊勢市生まれ。2006年3月、筑波大学大学院システム情報工学研究科にて博士(工学)の学位取得。2006年から情報通信研究機構でナレッジクラスタシステムの研究開発等に従事。2014年4月から国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授・主任研究員、テキストマイニング、データマイニング手法の研究開発に従事。2018年4月から現職。現在、機械学習などをはじめとする人工知能技術をコアとしたシステムの研究開発やそれらのビジネス、サービスの立ち上げを目的とした企業連携研究プロジェクトを多数推進中。総務省「AIネットワーク社会推進会議」構成員、経済産業省「流通・物流分野における情報の利活用に関する研究会」委員、総務省「ICTインテリジェント化影響評価検討会議」構成員など歴任。専門は、データマイニング、ビッグデータ分析システム、統合データベース、感性情報処理、メディアコンテンツ分析など。著書に『スマートデータ・イノベーション』(翔泳社)、『シンギュラリティは怖くない:ちょっと落ちついて人工知能について考えよう』(草思社)などがある。

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