KPMGコンサルティングは10月24日、世界84カ国の3958人の最高情報責任者(CIO)やITリーダーを対象に実施した意識調査の結果を発表した。多くの企業がデジタル変革に取り組む中で、CIOとしての役割の重要性が低下しつつあるという状況が浮上している。
同調査は1998年に開始され、今回は20回目となる。CIOなどを対象にする意識調査としては世界最大規模といい、日本からは25人が調査に回答した。
それによると、過去1年間にIT予算を増加させた回答者は49%で、2009年以降では最多だった。IT部門を増員するとの回答は47%で、こちらも2011年以降では最多となっている。一方、「CIOが担う戦略的役割が増している」と考える回答者は65%で、前年の71%から6ポイント減少。この質問では、2009~2016年が64~68%で推移しており、これと比較すれば2018年の結果は横ばいと見えるが、前年比の減少幅としては過去の推移より大きくなっている。
CIOの戦略的役割では、2018年の回答はここ数年で見れば平均的な範囲であるものの、2017年比では減少している(出典:KPMGコンサルティング)
また、自組織の技術スキルが不足していると見る回答者は65%で、スキル不足を請負業者やコンサルタントの採用で補うという回答者は85%、アウトソーシングによる補完は71%だった。一方、今後1年間にアウトソーシングの支出を増加させる回答者は32%で、前年から14%ポイント低下し、2005年以降では最も低水準となった。
アウトソーシング費用の増加は新規課題への対応と見なせるため、デジタル技術のスキル不足を感じながらもアウトソーシングの活用には消極的との分析がなされている(出典:KPMGコンサルティング)
調査では、「IT部門が管理しないIT投資(事業部門などが所管するIT投資)が11%以上ある」という割合が44%に上り、過去5年間で増加傾向にあることが分かった。一方、過去1年間における経営課題では、サイバーセキュリティの強化が23%増、オペレーションリスクの管理が12%増となったのに対し、革新的な新製品やサービスの開発は4%増にとどまった。「全社的なデジタル戦略がある」との回答は、2015年の27%から2017年は41%と増加してきたが、2018年は32%で9ポイント減少した。
デジタル戦略があるという回答は大きく減少した。「既に戦略があるから」として回答割合が減ったとの見方もできるが、一方で「デジタル変革に疲れた」企業の増加も考えられるという(出典:KPMGコンサルティング)
経営会議や経営管理メンバーに参加しているというCIOは、2017年の71%から2018年は65%に低下し、逆に参加していないというCIOは29%から35%に増加した。
昨今ではデジタル変革を担うポジションとして、「最高デジタル責任者(Chief Digital Officer:CDO)」も生まれている。自社内にCDOもしくはそれに準じたポジションを設置しているという回答は49%で、内訳は専任のCDO設置が11%、CIOがCDOを兼務するケースが24%、CIO以外の役職者が兼務するケースが14%だった。
企業のデジタル変革は、テクノロジの活用を伴うことから、CIOにデジタル変革を主導する役割が期待されているとの見方もあった。しかしKPMGの調査結果では、CIOに対する期待が必ずしも現実のものとはなっていない状況が浮上した格好となっている。
これについて同社は、企業がデジタル変革の取り組みをテクノロジ活用による事業貢献(攻めのIT)と認識するようになり、その主導役はCDOに期待し、CIOにはIT環境の維持(守りのIT)という役割を求めるようになりつつあるようだとの見方を示す。
待遇面では、前年比で基本給が増加したというCIOやITリーダーなどは47%だったが、49%は変化なしと回答した。増加した回答者を役職別に見ると、CDOは65%に上るが、CIOは46%、シニアITリーダーは45%にとどまった。
デジタル変革とCIOの役割の減衰という状況の明確な因果関係は不明だが、企業ではデジタル変革の主導権を事業部門や新規のIT計画などを担当するIT部門メンバーらに集中させ、既存のIT環境の運用や保守などを切り離す動きが見え始めているという。KPMGの調査では、少なくとも「企業のITを担う」というCIOやIT部門の従来の位置付けに変化の兆しが訪れている様子がうかがえる。