カナダのKinaxisで最高マーケティング責任者(CMO)を務めるJay Muelhoefer氏は、「サプライチェーンを従来のコストセンターから収益をもたらす“戦略的装備”に変革すべきだ」と語る。その潮流が“デジタル化”にあるとの見解を示す。
Kinaxis 最高マーケティング責任者のJay Muelhoefer氏
同社は、サプライチェーンマネジメント(SCM)のプラットフォームソフトウェア「RapidResponse」を手掛ける。SCMに関わる統合基幹業務システム(ERP)など各種システムのデータを一元化し、同時並行処理によるサプライチェーンのエンドツーエンドでの可視化、需給変動への即応を支援する予測型のアプローチに強みがあるという。
理想的なSCMは、市場の需要変化へ迅速かつ柔軟に対応可能な生産計画に基づく最適な調達と生産を通じて、収益機会を確実に捉えた商品を市場投入することと同時に、災害やテロ、地政学的影響や経済環境の変化といった不確実性の高いリスクへの対応がある。一方で企業は、市場のグローバル化や調達品目の拡大と複雑化といった課題に加え、昨今では世界的なeコマースの普及による即日配送ニーズの高まりや人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)などデジタルテクノロジへの対応にも迫られている。
Muelhoefer氏は、“サイロ”化した企業システムの環境がもたらすデータを有効に利用できない状況がこうした課題への対応において大きな足かせになっていると指摘する。部門の垣根を越えて必要な時に、必要なデータを共有、活用できないことは時間のムダにつながり、収益機会の損失を招いてきた。
同社はこの部分に対応するソリューションを長年提供してきたことでグローバル製造を中心とする顧客を獲得しており、日本企業のユーザーも多い。データを有効活用するポイントの1つは、「可視性」の確保にある。例えば、上述したリスクへの対応では、「何か製品に問題が発生した場合、その原因がどこにあるのかを膨大な調達品の情報の中から迅速に突き止め、把握する必要がある。可視化によって顧客対応に至るプロセスが短くなれば、リスクによる影響を縮小できるだろう」(Muelhoefer氏)
また、デジタルテクノロジの活用がSCMをより高いレベルに引き上げると提起する。「AIや機械学習とユーザーのベストプラクティスを利用することにより、これまで固定的であったリードタイムの目標設定に柔軟性を与えることができ、市場変化への対応力を高められる」
Muelhoefer氏によると、例えば参天製薬では、連携性のない多数のスプレッドシートや手作業で行っていたグローバルプランニングにおいてRapidResponseを導入し、サプライチェーン全体の可視化とビジネスインテリジェンスのアプローチを用いて、予測型のSCMを構築しているという。また、ドイツの化学大手BASFでは、RapidResponseとIoTや機械学習を組み合わせることで、生産状況の可視化とプロセスの平準化を図り、2~3週間を要するリードタイムの予測改善に取り組む。
同氏は、サプライチェーン計画について「市場環境がめまぐるしく変化する現在では、事前の予想が当たることはまずない」とし、その上で同社の予測型のアプローチについて「シミュレーションに基づくシナリオを提供することにより、サプライチェーン担当者の意思決定に要する時間を短縮することにある」と強調する。
サプライチェーンの“デジタル化”がもたらすという効果
同社は以前に日本市場での投資強化を表明していたが、Muelhoefer氏によれば、2018年第3四半期に東京と大阪でデータセンターを開設、今後も継続的な取り組みを通じてソリューション提供先の拡大を目指すとしている。