NECは5月27日、ヘルスケア事業強化の一環として、がんなどの先進的免疫治療法に特化した創薬事業に本格参入したと発表した。この事業では、同社の人工知能(AI)技術群「NEC the WISE」を活用する。
第一弾として、フランスのバイオテクノロジー企業であるTransgeneとともに頭頸部がんと卵巣がん向けの個別化ネオアンチゲンワクチンの臨床試験(治験)を開始する。ネオアンチゲンとは、がん細胞の遺伝子変異に伴って生まれるがん抗原。同社は2019年4月、米国FDA(U.S. Food and Drug Administration)から同治験実施の許可を取得しており、現在イギリスとフランスで申請中だ。治験薬においてもTransgeneと共同で開発する。
2018年の新規がん患者数は世界で約1800万人、国内でも死因の1位はがんだとされ、がん治療の進歩が依然として求められているとNECは説明する。その中で近年、患者自身の免疫系を利用してがんを治療する「がん免疫療法」が、次世代の治療法として注目されているという。
NECは、長年にわたって高知大学や山口大学とがんの創薬研究に取り組んできた。近年、ゲノム解析技術の発展により、AIによる膨大なデータ処理が求められている。同社は最先端のAIを創薬分野に活用し、安全で効果の高い先進的免疫治療法を開発することで、この創薬事業の価値を2025年までに3000億円にするとコメントしている。
患者によってさまざまなネオアンチゲンの選定には、NEC the WISEの1つである「グラフベース関係性学習」を活用した「ネオアンチゲン予測システム」が使用される。このAIエンジンは、NECの実験データによる学習に加え、ネオアンチゲンの多面的な項目を評価することによって、各患者が持つ多数の候補の中で有望なネオアンチゲンを選定できるという。同予測システムにおける独自性の高さから、NECはがん治療の向上を目指す国際的な組織「TESLA(Tumor neoantigEn SeLection Alliance)」への参画を認められたという。
最先端AI技術を活用した個別化がん免疫療法のイメージ(出典:NEC)