SAPは体験データで新しいステージに入る--SAPジャパンの福田社長

末岡洋子 2019年06月13日 06時00分

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 SAPは、5月に開催したイベント「SAPPHIRE Now 2019」で“将来のエンタープライズシステム”を見せた。買収したQualtricsのエクスペリエンスマネジメント(体験管理)を新たに戦略の柱に加えたものだ。SAPジャパン 代表取締役社長の福田譲氏は、「SAPが新しいステージに入った」と話す。SAPPHIRE会場で福田氏に、体験管理、S/4 HANA、C/4 HANAなどについて聞いた。

--Qualtrics買収の成果が製品に現れた。顧客体験をきちんと数値化するというメッセージか。

 Qualtricsの買収から半年だが、買収前から日本でもとても調子がよく、人員も急速に増えている。顧客も増えており、航空会社などが使っている。航空会社の場合、顧客が搭乗した飛行機が目的地に着いたことはシステム上分かる。到着してから、フライトに関するアンケートを取るに当たって、どのぐらい時間をあけるのか、どんな方法でアプローチするのかなどを設定できる。メールだけでなく、Facebook Messengerかもしれないし、テキストメッセージかもしれない。顧客一人ひとりが何らかの体験をしたその瞬間に、最適な方法で自然にチェックインできる。データの取り方も、スライドさせる、スマイリーから選ぶ、コメントを書いてもらうなどさまざまな手法がある。それを全てプラットフォーム上で集計分析したり、AI(人工知能)を使ってコメントを解析したりして、顧客がどう思っているのかを分かりやすく要約してくれる。

SAPジャパン 代表取締役社長の福田譲氏
SAPジャパン 代表取締役社長の福田譲氏

 よくSurveyMonkeyと比較されるが、Qualtricsはサーベイ(アンケート調査)ではなく、体験の瞬間に顧客がどう感じているのかを取得することが違和感なく行えるプラットフォームだ。

--SAPが得意とする「オペレーション(O)データ」、Qualtricsの体験データ(Experience:x-data)の組み合わせは、SAPにとって何を意味するのか。

 流れとしては、現在のCEO(最高経営責任者)であるBill(Bill McDermott氏)になった2010年からこれまでは、面積を広めるとともに、ビジネスアプリケーションのクラウド化、HANA化、データドリブン化を進めてきた。今回の体験管理は全く違うレイヤーが入ったと言える。

 ドリルと穴の比喩(ドリルを買いに来た人はドリルが欲しいのではなく穴が欲しい)で言うと、さまざまなドリルを買っても穴が開いていないのに、SAPを含め、あらゆるベンダーが新しいドリルを出し続けてきた。そうではなく、これまでとは全く違う穴の開け方をトライできる。“What”が分かるオペレーショナルデータに対して、体験のXデータでは“Why”や“How”が分かる。“Why”を科学できることはとても大きな変化だ。

 SAPは新しいステージに入る。これまでのように、機能が拡張するという発想ではなく、ステージそのものが変わる。

--日本では、どのようにQualtrics、そしてx-dataの重要性を伝えていくのか。

 ITは手段であって目的ではない。「在庫を減らしたい」「売り上げを高めたい」などの手段として導入するが、日本では導入効果が上がらないためITがコストにされる。だがXデータによって、何をやれば改善できるのかというところまで踏み込んで示唆を得られるようになる。きちんと効果を出すITにするという点で、日本のITにとって大きい。

 日本は勘や経験を重んじる傾向にあるが、Qualtricsは鉄砲のような技術。Qualtricsのような技術を利用しないというのは、鉄砲が伝来したのに刀で戦うようなものだ。

--日本におけるS/4 HANAへの移行状況はどうか。

 順調に推移している。2025年にとらわれずに、S/4 HANAの価値を日本の顧客に訴求している。

 世界と異なるのは、日本の顧客は中長期で考えることを得意としており、5~10年でコストを試算している。そうなると、クラウドの場合は4~5年でコストが逆転してサブスクリプションが割高となるので、長く使う前提なら買い取った方がいいとなる。特に、基幹系はフロントエンドとは異なり、“やめる”という選択肢がない。そこで、顧客の多くがSAPのソフトウェアを買い取り型で購入している。SAPでは、永久使用権ライセンスをクラウドでもオンプレミスでも使える。顧客はそれをクラウド(IaaS)上にデプロイしている。

 一方で、完全に標準にフィットさせるパブリックSaaS版となると少ない。先に、日本で初めてパブリックSaaS版のS/4 HANA Cloudの顧客が本番稼働に入った。日本を代表するような伝統的な大企業だが、導入は半年で完了した。AIやML(機械学習)の機能は次々と技術革新が進んでいる。これをどれだけ迅速に、簡便に手に入れられるかが、これから競争力の源になる。これを社長自らが理解し、トップダウンで決定した事例になる

--SAP自身が幅広い製品を持つ中で、顧客層も変わってきているのか。

 (従来は)製造業に強かったが、2018年に初めて製造業以外の顧客が半分を超えた。5年前は7割が製造業だったことを考えると、大きな変化が来ていると言える。

 背景には、ERP(統合基幹業務システム)を選ぶ時の考え方の変化がある。5年前は、「自社でも(システムを)作れるが、買うのとどちらがいいか?」という考え方だったが、現在は「自社で作れるが、作りたくない」というところが多い。価値基準が変わってきている。顧客は、変化への追随性や手離れの良さのようなものを重視している。やはり、クラウドが大きく変えた。当初はIaaS、PaaSだったがレイヤーが上がって、アプリケーションレイヤーまでその発想が浸透してきている。

 例えば、東京海上やトヨタ自動車など、世界でも名だたる業界トップの企業がS/4 HANAを導入している。金融や公共など、これまであまり縁がなかったところが動き始めている。

--「C/4 HANA」の発表(2018年)から1年が経過したが、日本ではどのように進めているのか。

 SFA(営業支援システム)はコモディティー化しており、われわれは、ここにはフォーカスしない。SAPはコマース、カスタマークラウドの中の1次データを得意とし、C/4らしい価値を提供する戦略を採っている。そうでなければ、競争力がない。

 スイートのアプローチという意味では、発電所のプラントなど、何かを設置したら稼働に入り、その後メンテナンス、アフターサービスと、納入した後にビジネスが始まる業態で、S/4と連動するような領域を中心にスタートしている。地味だが、なかなか他社で実現できない深い領域での採用例が日本でも始まっている。

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