中部電力が取り組む「コト売り」とIoTやクラウドの使い方

國谷武史 (編集部) 2019年06月19日 06時00分

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 中部電力は、新規事業として2000年から省エネをテーマに、エネルギーの最適利用を法人顧客に助言するサービスを提供する。近年はこのサービスを拡充する中でIoTやクラウドなどのテクノロジーを積極的に活用している。その取り組みを「AWS Summit Tokyo 2019」の講演で紹介した。

 同社は、愛知県や長野県の全域と岐阜県や三重県、静岡県の一部を営業管内として発送電事業などを行ってきた。しかし、政府のエネルギー自由化策によって他地域への事業展開が可能になるとともに、他地域から異業種の参入も可能になった。同社は、2015年に東京エリアで、2018年に関西エリアでそれぞれ電力販売をスタート。2017年には足下の中部エリアでガス小売にも参入。地域市場の垣根もエネルギーの種類(電気やガスなど)別の垣根も取り払われたことで、販売競争が激化している。

IoTやクラウドを使った新規事業への取り組みをAWS Summit Tokyo 2019で紹介した中部電力 販売カンパニー法人営業部エンジニアリンググループの中村剛氏
IoTやクラウドを使った新規事業への取り組みをAWS Summit Tokyo 2019で紹介した中部電力 販売カンパニー法人営業部エンジニアリンググループの中村剛氏

 販売カンパニー法人営業部エンジニアリンググループの中村剛氏は、「電気は究極のコモディティー商品。商品での差別化は極めて困難」と話す。“電気”そのものは変えられないため、売り方で差別化することを目指した。ただ、電気料金を安くするだけでは価格競争に陥り、いずれ消耗する。別の商品(モノ)を抱き合わせて販売しても限りがある。そこで“モノ売り”ではなく“コト売り”へ注力するに至った。

 “コト売り”とは、即ちソリューション。2000年に開始したエネルギーコンサルティングでは、ビルや工場設備のエネルギー消費の無駄を調べ、省エネ方法を提案する。“モノ売り”ではないことから、今あるモノをどう最適に利用するかに軸足を置き、現在は年間約3000件の提案を手掛ける中で、90%が運用改善の提案であり、設備更新を伴う提案は10%という。

 その後、2012年からは顧客と共同の技術開発によって生産性の向上を図るサービスや、2015年からエネルギーコンサルティングで培ったノウハウを顧客の海外拠点にも提供するサービスも展開。これらの経験を踏まえて、2017年にIoTを活用する「IoT設備最適運用サービス」を立ち上げ、2018年10月には第一弾となる「コンプレッサIoT最適運用サービス」をスタートした。

 同サービスでは、工場内のコンプレッサーにセンサーを取り付け、同社が開発したデータ収集ゲートウェイを通じて、データをAmazon Web Services(AWS)のクラウドに集約する。データをクラウド上で分析し、レポートなどで顧客に設備の最適な運用方法をアドバイスする。現在までに8社が利用しているという。

 中村氏によれば、このサービスを提供するためのIoTプラットフォームの主な要件として(1)多様な計測種類への対応、(2)精緻なデータの粒度、(3)リアルタイム性、(4)迅速なカスタマイズ性――を定めた。しかし、このプラットフォームを“既製品”で作り上げるのは困難だったことから、適材適所のアプローチを採った。

 まずセンサー機器類は汎用デバイス製品を活用し、ゲートウェイ装置では汎用のハードウェアと独自開発のファームウェアを組み合わせた。ファームウェアを独自開発したのは、特にデータやシステムなどの堅牢なセキュリティーを確保するためで、通信も閉域型のLTEと電子証明書の組み合わせによってセキュリティーを確保している。これらの開発ではオープンソースソフトウェア(OSS)なども活用。「システム開発のハードルが下がったことでプロトタイプを作りやすくなり、短期での開発が可能になった」(中村氏)とのことだ。

 また、講演の中で中村氏は、開発面におけるIT部門のサポートにも謝辞を表明している。「AWSの採用はIT部門の判断。サービスの性質からセキュリティーが非常に重要で、AWSの『責任共有モデル』のアプローチが合致した。ユーザー(ここでは中部電力)が責任を負うべき領域ではわれわれの責任によってセキュリティーを講じていく。これができるサービスを選定したIT部門に感謝している」と述べている。

 このサービスの効果として、ある企業では可視化したデータをもとにインバーターの設定変更による運用改善を図ることでコンプレッサーの安定稼働と年間300万円相当の省エネを実現したという。別の企業では、データの可視化と分析の結果をスマートフォンで閲覧できるようにしており、例えばアラートが発生するとすぐに現場へ駆けつけられるようにした。従来ならそうした予兆を監視するために現場に待機する必要があったことから、この仕組みが設備担当者の“働き方改革”つながると期待されている。

 現在は、さまざまなテーマでIoTとクラウドを活用するこのサービスの適用拡大を進める。今後の構想では海外展開も視野に入れているという。

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